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日米繊維交渉“善処します”誤訳伝説 その2

Japan In-depth / 2017年8月20日 23時56分

沖縄に関係する“寛大な”決定とは、沖縄返還に関してニクソンが“寛大な”決定を示したことを意味する。すなわち、佐藤は沖縄返還だけでなく、沖縄返還と繊維問題を別々に扱うことにニクソンが同意したことにも深い感謝の意を表明した。

さらに、佐藤は1つ目のキーワードである「年内」については「12月末」までと、期限を明示して、この問題が解決されることを「約束した( promised )」上で、繊維問題の解決について十分な責任を取ることを「誓約した( pledged )」のである。

この「年内」のキーワードについては、ニクソンも明確に言及しており、米側の公文書では、「大統領は言った。米国と日本が12月末までに合意することが重要だと。というのも、米国は両国間の了解を踏まえてガットにこの問題を提起したいからである」としている。

佐藤の発言から「約束promise」「誓約 pledge」の意思を受け止めたニクソンが「年内」合意を強く認識していたと考えられる。 

もう1つのキーワードの「包括的」はどうだったのであろうか。

日本側の公文書によると、会談の中で、佐藤は「これまでの交渉の過程で米側もcomprehensive (筆者注:この部分は日本語の公文書で英語表記になっている)の表現には固執しなくなってきており」などとして、「comprehensive(同) という表現の議論にもどすのは不適当と思うので、この際大統領において配慮してほしい」と述べたが、ニクソンは「comprehensive(同)という表現は一層むつかしい問題である」などとしながらも、「総理が selective(同)ではなく、 comprehensive(同)な agreement(同)に到達するように協力していただければありがたい」と指摘した。

この部分は米側の公文書では、「大統領は “comprehensive” の言葉の問題は一段と難しくなっていると述べた。(中略)彼は有り難く思うだろう。もし、むしろ、彼に米国内での深刻な問題を突き付ける“selective”な合意ではなく、総理が可能な限り協力し、可能な限り “comprehensive”な合意をまとめ上げてくれれば」と記録されている。

日本側の記録と発言の趣旨がほぼ一致するが、ニクソンが “selective” な合意だと、自身に深刻な問題が提起されることになると指摘している点に注目すべきである。つまり、キッシンジャーと若泉との間でつくられたシナリオとは異なり、佐藤がcomprehensive な合意は不適当であるとして大統領に配慮を求めたところ、ニクソンはcomprehensive な合意への譲歩を促したと考えられる。

(その3に続く。その1はこちら。全4回。毎週土曜日掲載予定)

※この記事には複数の写真が含まれています。すべて見るにはhttp://japan-indepth.jp/?p=35649の記事をご覧ください

トップ画像:佐藤栄作首相とリチャード・ニクソン米大統領(1969年11月米ホワイトハウスにて) 出典/Richard Nixon Foundation HP

※本稿は、日本メディア英語学会東日本地区研究例会(2016年6月11日)の研究発表、同年末に日本通訳翻訳学会の学会誌「通訳翻訳研究への招待」に寄稿した論文を基に執筆した。日本メディア学会と日本通訳翻訳学会には感謝申し上げる。今回の執筆の際、論文を編集し大幅に加筆するとともに、論文中のすべての引用英文を翻訳した。

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