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日米繊維交渉“善処します”誤訳伝説 その3

Japan In-depth / 2017年8月27日 14時45分

▲写真 佐藤首相とニクソン大統領 1972年5月1日 米・サン・クレメンテにて

興味深いのは訳語の “Please trust me.” である。民主党政権下の2009年に鳩山由紀夫総理がオバマ大統領との日米首脳会談で、沖縄・普天間基地問題の打開を目指し「トラスト・ミー」と発言したが、最終的にオバマ大統領の信頼を獲得できず、日米関係迷走の原因になったとも言われる。歴史のいたずらというべきか、鳩山・オバマ会談のちょうど40年前、戦後日米関係の大きな節目となった佐藤・ニクソン会談でも、同じ表現が奇しくも使われていたのである。

“Please trust me.” と「トラスト・ミー」の巡り合わせについては、元駐タイ大使の岡崎久彦が2010年に佐藤・ニクソン会談を振り返り、「当時私が内部で聞いた話では、陪席者が、ここまで言って大丈夫かと思ったほど、(中略)鳩山由紀夫首相の『トラスト・ミー』と同じような強い表現だったと言う」と証言している。陪席者とは赤谷だったのであろう。

無視できないのは日本側の公文書では、「信頼してほしい」の後からページの半分くらいが黒く塗りつぶされている。機密解除されたものの、当局には不都合な文言の表記があったかもしれない。だが、米国側の公文書にはその部分に該当すると思われる記述が残っている。

すなわち、「大統領は自分にとってそれで“十分”だと言った。大統領がこのことを確認するため総理と握手した際、総理は言った。“相互信頼(原文はmutual trust)”が重要だと」と記録されており、両首脳は正に商談成立を祝うかのように握手をしていたのである。さらに佐藤はニクソンの手を握りながら「相互信頼が重要だ」とまで言い切った。

佐藤の発言から「約束する promise」「誓約する pledge」「vow 誓う」の言葉を認識したニクソンにしてみれば、“Please trust me.” “mutual trust ”などと畳みかけられるように言われた結果、繊維交渉の「年内合意」の明確な「約束」を得られたと解釈してもおかしくなかったはずだ。何しろ、首脳会談前に「包括的」「年内」のキーワードを使うシナリオが出来ていたのである。

この会談からほぼ10年後、キッシンジャーは「佐藤は、繊維問題を大統領に希望通りに解決することを、はっきり約束した。佐藤は、全責任を負うこと、約束を守ることは自分の『信条』であり、『誓約』とみてもらってよいこと、この目的のために誠意をもって、全力を尽くすつもりであることを明言した」と述懐している。この発言について、若泉は「おそらくこれは、ニクソン大統領自身の認識でもあったのではないかと思われる」と指摘している。

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