日米繊維交渉“善処します”誤訳伝説 その3
Japan In-depth / 2017年8月27日 14時45分
繊維交渉は「年内」の1969年末どころか70年、71年に持ち越した。70年の10月24日にワシントンで2度目の佐藤・ニクソン会談でも繊維問題が取り上げられたが、米側の公文書からは、佐藤が謝罪の意を表す場面が確認できる。すなわち「完全な解決の段階にはまだ到達していないが、彼(筆者注:佐藤総理)は再開された交渉を実りある妥結へと持っていくとの自身の決意を再確認した。昨年、彼は大統領に対し繊維問題の解決に向けて何らかの措置を講じることを約束した(原文はpromised)が、謝罪しなければならないと感じた。期待されたことを実行しないで大統領を当惑させたことについて」と、記されている。
「約束」不履行を認めた佐藤の謝罪姿勢を受けて、ニクソンが輸出規制の約束履行の要求を取り下げたわけではない。繊維交渉に参加していたスタンズ商務長官は1971年2月、米側の不満の高まりをついて、「繊維をめぐる日本側との長時間のワルツが事実上、終わったのは本当に明白だ」と対日批判を行った。
▲写真 モーリス・スタンズ米商務長官
日本の繊維産業連盟は71年3月、一方的な自主規制を発表したが、ニクソンは包括規制の条件を満たすものではないとして強く非難した。この結果、日米間に51年のサンフランシスコ平和条約締結以来、経験したことのないほど厳しい緊張が生まれることになったとも言われる。
マイヤー駐日大使は総理官邸に佐藤を訪ねてニクソンの親書を手渡した。ニクソンは親書の中で「失望と懸念を隠すことができない。(中略)日本の繊維業界が取ったアプローチに対し、米国の繊維業界のすべてのメンバーや議会を含む支援者は激しく、かつ一斉に批判を加えている」などと語った(楠田實著『楠田實日記:佐藤栄作総理首席秘書官の二〇〇〇日』に添付されている英文親書を筆者が翻訳)。
▲写真 ケネディ大統領と話すアーミン・マイヤー氏(当時駐レバノン大使。1969年から1972年にかけて駐日大使。)ホワイトハウスにて 1961年12月13日撮影 出典:JOHN F. KENNEDY PRESIDENTIAL LIBRARY AND MUSEUM HP
(その4に続く。全4回。その1、その2も合わせてお読みください。毎週土曜日掲載予定)
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トップ画像:佐藤栄作首相とリチャード・ニクソン米大統領(1969年11月米ホワイトハウスにて)出典/Richard Nixon Foundation HP
※本稿は、日本メディア英語学会東日本地区研究例会(2016年6月11日)の研究発表、同年末に日本通訳翻訳学会の学会誌「通訳翻訳研究への招待」に寄稿した論文を基に執筆した。日本メディア学会と日本通訳翻訳学会には感謝申し上げる。今回の執筆の際、論文を編集し大幅に加筆するとともに、論文中のすべての引用英文を翻訳した。
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