ノーベル文学賞と言語の関係 ノーベル賞の都市伝説その1
Japan In-depth / 2017年11月12日 23時0分
と言うのは、私の親類がロンドンに長く住んでおり、イシグロ氏とも交遊があるため、マスコミには出ないような情報も、私の耳には届くのである。実は、その親類とは吉崎道代といい、大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』のプロデュースに関わるなどした人物だ。
楽屋話になってしまうが、実は彼女がイシグロ氏の人となりについて書いたエッセイを、某月刊誌に売り込んだことがある。編集者の返事は、「彼がノーベル賞でもとったら、大特集をやりますから、その時は是非」というものだった。
その時は、持ち込みを婉曲に断られたのかな、と思ったが、おそらく年内にはこのエッセイが活字になるであろう。
具体的なことは、そちらをお楽しみに、ということになるが、私の知る限り、イシグロ氏の言語感覚や立ち居振る舞いは、英国人以外の何者でもない。さらに私が得ている情報では、イシグロ氏の「日本語の進歩が止まった」のは17~18歳の頃の話で、英国の作家として立つ決心をしたと同時に、日本語の勉強を放棄してしまったのだという。逆に言うと、ティーンエイジャーになるまでは、日本語もある程度学んでいたはずなので、「5歳から進歩していない」という氏のコメントは、額面通りには受け取れないのである。
ただ、私が疑問に思うのは、英国で一流の作家になることと、日英のバイリンガルになることは別に矛盾もするまいし、どうして日本語を捨てる決心などしたのか、ということだ。まあ、私などがノーベル賞作家に対してあれこれ言ったところで、なんの説得力もないであろうから、またまた親類の助けを借りることになってしまうが、前述の吉崎道代の息子はロンドン生まれで、小学校からロンドン大学まで、英語で教育を受けている。その彼に対してイシグロ氏は、「君はバイリンガルになった方がいいよ」とアドバイスして下さったことがあるそうだ。やはり、日本を舞台にした小説を書く際など、日本語がもっとできれば、と思うようなことがあったのかも知れない。
ところで、ノーベル文学賞については、だいぶ前から、「英語で書く人の方が、圧倒的に有利」という話が喧伝されている。イシグロ氏が日本語の勉強を放棄して、英語で一流の文章を書くことを志したのも、もしかしたら(私の勝手な想像だが)、この話と少しは関係があるのかも知れない。
そこで、歴代受賞者が原著を何語で執筆したのか調べたみたところ、英語が29人とたしかに突出して多いが、英語で書かないと……などと言われるほどでもない。次いで多いのがフランス語で15人、さらにドイツ語13人、スペイン語11人と続くが、これは、その言語を操る人口との対比で言うと、むしろドイツ語が突出して多い、と言えるのである。
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