余りにも惜しい元ASEAN事務局長の死
Japan In-depth / 2017年12月14日 11時25分
▲ 写真)アウン・サン・スー・チー氏 出典)flickr : UN Geneva
このような状況の下、ASEAN内に高まったのがASEANの掲げる建設的関与政策と言う名の内政不干渉の是非だった。当事者であるカンボジアもミャンマーもこれは自分たちの内政問題であると突っぱね、加盟国にもこれに同調する国は少なくなかった。そうした中でASEANは内政不干渉の原則の是非を今や議論する時であると旗を振った人物の1人がスリン氏だった。
それまでのASEANはこの問題には文字通りアンタッチャブル、わが身に及んではと議論自体を避ける空気が支配的だったから、大胆な発言だった。
しかし結論を言えば、カンボジアの加盟は延期されたものの、内政不干渉が見直されることはなく、今も生きている。もっとも問題次第ではより踏み込んで論議するケースも出て来ている。指導者の世代交代や時代の変化に加えて、スリン氏らの発言が一石を投じたことも確かだろう。
スリン氏はその後、2008年にはASEAN事務局長に就任、事務局体制の強化やNGO(非政府機関)との連携、さらには欧米とイスラム世界との和解にも意欲を燃やした。自らもイスラム教徒であるだけに和解への思いは強かったはずだが、それゆえに結果は満足するものではなかっただろう。
一方でスリン氏は東南アジア有数の知日派であり親日家だった。「ASEANの発展は戦後日本の関与や支援なしにあり得なかった」というのが持論で、しばしば訪日し、知己も多かった。そして日本のことを実によく見ていた。
例えばカンボジア和平でUNTAC(国連カンボジア暫定統治機構)の事務総長特別代表に明石康氏が就任し、また自衛隊部隊が初めてカンボジアPKO(平和維持活動)に参加したことを高く評価したが、そこに留まらず、同じ東南アジアの東ティモールのUNTAET(国連東ティモール暫定統治機構)に日本が憲法上の制約から自衛隊を派遣出来なかった時には、そのことではなく日本のASEANへの財政支援を取り上げ、「ASEANが東ティモールのPKOに参加出来たのは日本のおかげ」と日本の貢献を知らしめる細やかな配慮を忘れなかった。
▲ 写真)赤石康氏 出典)外務省ホームページ
▲ 写真)カンボジアで活動する自衛隊員の様子1992年 出典)外務省ホームページ
東日本大震災ではASEAN事務局長としてリーダーシップを発揮した。ASEAN外相会議は日本支援、つまりASEAN以外のテーマでこの時、初の特別会合を開いた。スリン氏自身もASEANの若者たちを引率、支援の具体策を探るため現地を訪れ、ASEAN経済閣僚らの訪問の先鞭をつけた。
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