誰も幸せにならぬ決定 エルサレム問題(上)【2018:中東】
Japan In-depth / 2018年1月3日 22時0分
▲写真 テルアビブ Photo by Amos Meron
このような経緯で、イスラエルの政府機関は大半が西エルサレムに移転した(主要官庁の中では国防省のみ、軍事的な理由でテルアビブに留まっている)にも関わらず、各国は依然として大使館や領事館をテルアビブに置き続けるという、他国ではあまり例を見ない状況が続いていたのである。
そして2017年12月6日(日本時間)、米国のトランプ大統領は、イスラエルの首都はエルサレムであると認め、大使館を移転する方針を明らかにした。
ここで問題なのは、トランプ大統領が言う「エルサレム」の定義だ。すでに見たように、西エルサレムに限定された話であるのなら、建国以来イスラエル固有の領土であると国際的に承認されており、政府機関の大半が移転済みなのであるから、少なくとも理論上は、ここに大使館を置いても不都合はない。
しかし、もちろん、そうではない。トランプ大統領は、東エルサレムを含めてイスラエルの首都であるという、同国の主張に乗っかった決定を下したのである。その理由は、わが国でもよく知られる通りで、米国の政界に対して、圧倒的な資金力にものを言わせ、強い影響力を保ち続けているユダヤ・ロビーへの配慮であった。
ユダヤ・ロビーの影響力がどれほどのものかは、実はヒラリー・クリントンも米大使館をエルサレムに移転させると公言していた、ということからも推察されよう。
ただ、これまでもそうした発言はなされてきたが、歴代の大統領は、就任した後はなんだかんだと理由をつけて、実行せずじまいであった。これが米国の大統領選挙の奇妙なところで、選挙運動中に言ったことがすべて公約として実行を迫られるわけではない。
トランプ大統領がそれを踏襲しなかったのは、娘婿で上級顧問の職にあるクシュナー氏がユダヤ教徒だから、と見る向きが多いようだが、私が中東問題に造詣の深い元外交官から直接聞かされたところによると、専門筋の間では、クシュネル氏自身は、エルサレム移転には慎重な姿勢であったと見る向きもあるそうだ。
とどのつまり、こういうことではいだろうか。もともとトランプ大統領という人は、外交経験もなく、中東和平実現のために過去四半世紀にわたって米国が払ってきた努力についてろくに知らない。そこをユダヤ・ロビーにうまくつけ込まれたか、自分は公約をちゃんと果たす大統領だ、とアピールしたい一心だったか、おそらくはその両方だろう。
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