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トランプ暴露本で政権崩壊はない

Japan In-depth / 2018年1月13日 16時29分

ウォルフ氏によれば、彼女は政権内の「汚れ役」を引き受ける一方で、情報をメディアにリークするような「悪賢い女」だ。トランプ氏が次回2020年の大統領選で再選を目指すだけでなく、娘を通して、トランプ帝国を長期にわたって永らえさせるつもりだというのだ。

「クリントン王朝」「ケネディ王朝」や「ブッシュ王朝」を引き合いに出すまでもなく、米国では階級が固定され、リベラル・保守などのイデオロギーにかかわらず、富を独占する一部の上流層が支配を強化していく傾向がある。

幕末の万延元年(1860)に米国に派遣された勝海舟などの使節は、日本でいえば初代幕府将軍・徳川家康にあたる初代大統領ジョージ・ワシントンの子孫が「今、どこで何をしているか分からない」と聞かされ、その清廉さに感銘を受けるとともに、「これが民主主義だ」と理解したという。だが、現在の米国は世襲される王朝社会であり、「イバンカ大統領計画」を伝える『炎と怒り』の内容は、それを裏付ける傍証なのだ。

このようにトランプ政権の醜悪さや無能ぶりを印象付ける『炎と怒り』だが、政権を崩壊に追い込むという著者のウォルフ氏の目的は達成できるだろうか。

▲写真 ジャレット・クシュナー米大統領上級顧問と妻のイバンカ・トランプ大統領補佐官(2017年12月19日) 出典:イヴァンカ・トランプ Twitter

実際には、暴露本に便乗してメディア・民主党・共和党主流派が大統領を叩けば叩くほど、トランプ支持者の結束は強まる。「バッシングは負け犬どもの遠吠えに過ぎず、トランプ大統領が正しいからこそ叩かれるのだ」という信念がより強固になる結果を生むだろう。「このような攻撃に耐える大統領は本当に『精神が安定した天才』なのだ」、と。

また、『炎と怒り』は現在の米国が抱える構造的な問題を、トランプ氏個人や政権に矮小化してしまう危険性がある。いくらトランプ氏や政権が問題だらけとはいえ、そうした大統領が選出されるほど、米国は社会的にも政治的にも経済的にも壊れて、行き詰っているのである。大統領が交代したり、政権党が代わるくらいで解決できない、根深く構造的な、体制の疲弊がトランプ氏を大統領にしたからだ。『炎と怒り』は表層のみを見て、深層にメスを入れていないため、政権を崩壊させる決定的な役割を果たすことはないであろう。

税制改革や規制撤廃で弱者から収奪して強者を富ませるトランプ政権ではあるが、そうした富と権力の独占を許すことで、共産党独裁の下で台頭する巨大独占中国企業に米独占企業が対抗できる力をつけさせるなど、「米国を再び偉大にする」政策にそれなりの根拠と一貫性を持っている。肝心なのは結果とレガシーであり、『炎と怒り』はそうした正負両方の側面を見ていないことが、大きな欠点と言える。

だが、暴露本『炎と怒り』を斜めに読めば、トランプ氏個人のレベルを超えた米国の構造的な問題や病理が見事にあぶり出されており、トランプ時代の米国の混迷を解読するには、絶好の一冊である。

トップ画像:Fire and Fury ペーパーバック – 2018/1/9 Michael Wolff (著)

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