差別が過激思想の温床となる イスラム脅威論の虚構 その4
Japan In-depth / 2018年2月25日 13時56分
モハメド・アリ 1945
出典)パブリックドメイン
余談ながら、イスラム圏には同姓同名がきわめて多く、米国の情報機関などでは、イスラム過激派の中からテロ容疑者を特定するのに苦労していると聞く。
話を戻して、ネーション・オブ・イスラムは1930年代にアフガニスタン出身とされるウォーレス・ファード・ムハンマドという人物が、自ら「救世主」を名乗って創始した新興宗教である。
イスラムと名乗ってはいるが、黒人至上主義を唱えるなど、伝統的イスラムの教義からは大きく逸脱しているため、イスラムの一派とは見なされていない。むしろ新興宗教の姿を借りた黒人解放運動のひとつとされ、日本を含めて「ブラック・ムスリム運動」の俗称で知られるようになった。
たとえば伝統的イスラムにおいては、キリスト教徒同様、人類の祖先は造物主によって生み出されたアダムとイブだとして、人種間の優劣などはないと考えるが、ネーション・オブ・イスラムは、最初の人類は黒人であったので、黒人こそ正当な人類なのだと主張する。
こうした主張がアフリカ系米国人に広く受け容れられた理由は、彼らが置かれていた貧困と差別構造に他ならない。1967年、モハメド・アリは徴兵を拒否し、プロボクサーのライセンスを剥奪されてしまうが、表向き、つまりマスコミに向けては、「俺がファイトマネーから納める税金で、政府はジェット戦闘機を1機買える。俺をリングに上げないなんて愚かなことさ」などと発言しつつ、親しい友人たちには、「金持ちの子供は大学に行き、貧乏人の子は戦場に行く。こんな差別構造を放置している政府のために、なんの恨みもないベトコンを殺すだなんて、僕の信仰に反するよ」と語っていた。
当時の米国の社会構造に照らせば、ここで言う「金持ち」と「貧乏人」は、肌の色の違いとほぼ二重写しになると考えられる。少なくとも、アフリカ系の人々の立場からは、そうであった。彼らと彼らの祖先が受けてきた差別が、いかに度し難いものであったか。
たとえばモハメド・アリ自身、「ブラック・イズ・ビューティフル!」と声を大にして繰り返していたのだが、アイルランド系白人の血も8分の1引いている。
実はこれ、アフリカ系米国人にとって、さほど珍しいことではない。歴史教科書などには一切書かれていないが、アフリカ系の奴隷を両親として生まれた娘の処女を奪うことは、奴隷を持つ身分の男性の特権だと考えられた時代が長かったから、こういうことが起きたのだ。
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