だから「十字軍」は憎まれる イスラム脅威論の虚構 その6(上)
Japan In-depth / 2018年3月18日 22時40分
さらに問題だったのは、当時の法王庁が、キリスト教原理主義のルーツのごとき思想的傾向をもっていたことで、法王自身がフランスなどの騎士団に対し、イスラムとの戦いで犠牲を払ったならば、原罪の償いを免除されよう、と呼びかけた記録が残されている。
十字軍の思想的背景について、
「汝の敵を愛せよ。ただし異教徒は除く」
「汝、殺すなかれ。ただし異教徒は除く」
などと現在でも評されるゆえんである。
かくして1096年暮れ、各地から参集した諸侯の軍勢がコンスタンチノープル(現・イスタンブール)に集結し、イスラムの領域に対して侵攻を開始した。
ちなみに十字軍というのは後に広まった俗称で、十字架をあしらったデザインの旗や衣装を好んだからに過ぎないと言われる。
彼らはアナトリア半島(トルコのアジア領域)を経てシリアへと進撃したが、当地の人々からは単に「フランク人」と呼ばれた。
▲写真 アナトリア半島(赤く囲まれた部分) 出典 NASA image modified by en:User:Denizz
前述のように、第一回十字軍の主力をなしたのがヨーロッパ大陸中西部の騎士たちで、彼ら自身がフランクと名乗っていたことが第一の理由ではあろうが、中近東のイスラム諸侯にしてみれば、宗教戦争と言うよりも、北方の蛮族が攻めてきた、というに近い認識だったのである。
ただ、この時期イスラムは決して一枚岩ではなく、むしろ諸侯の勢力争いの結果、一部には寝返りも出たため、兵力的には劣勢のキリスト教軍団(以下、十字軍)に対し、連敗を重ねる有様であった。このことがまた、十字軍の側にとっては、「神のご加護で優勢な敵を打ち破った」などと、聖戦の意識を高める原因となったのである。
しかし、聖戦をとなえる彼らが、占領地で略奪や強姦などの蛮行をさかんに働いたことも事実で、十字軍どころか蛮族だ、というイスラム側の見方も、あながち悪意に基づく「歴史認識」とも決めつけられない。
とどのつまり、どこかの国の旧軍とよく似た話で、十字軍兵士の大部分は、聖戦という大義名分を信じており、それゆえ士気も高かったのだが、戦争指導部が無能かつ無責任で、史上稀に見る規模の軍事遠征でありながら、補給の問題を真面目に考えていなかった。
この結果、物資の補給を「現地調達」に頼らざるを得なくなり、なおかつ聖戦の美名に隠れて兵士のモラルには無頓着であったために、イスラムの目に映る十字軍とは残忍な侵略者に他ならない、ということになっていった。
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