「掌返し」はもはや病理ではないか サッカー日本代表のカルテ その3
Japan In-depth / 2018年5月6日 7時0分
ではなにが問題なのかと言うと、ひとつには第1回で述べた通り、任命責任も説明責任も果たさない協会の態度で、いまひとつは、これまでハリルの選手起用を非難して解任論をとなえていた一部サポーターが、会見を見て急に同情論に傾くという「掌返し」である。
同情までは分かるにしても、ハリル解任の影の主役は本田圭佑であると決めつけ、今度は彼に対して批判的な書き込みがネットで拡散するというのは……
2010年南アフリカ大会のことを思い出さずにはいられない。当時の監督は岡田武史氏であったが、ハリルと同様、直前の強化試合で結果が出なかった。その結果、一部サポーターは監督解任を求める署名活動まで始め、監督自身、協会に進退伺いを提出したのである。
▲写真 岡田武史氏 出典:FC IMABARI
しかしこの時、協会が出した結論は「続投」で、また、監督自身も本大会直前に、それまでの日本代表の売り物だった攻撃的なパス・サッカーを放棄。中盤の選手として台頭してきていた本田圭佑をフォワードで起用する一方、最終ラインと中盤の底の間にアンカーと呼ばれる選手を配置する守備的な戦術に転換し、本大会にのぞんだ。
結果は、2勝1敗で1次リーグを突破。準優勝したオランダにこそ敗れたが、0-1という大善戦で、相手の主力選手をして、「ボールを持った次の瞬間には囲まれてしまう。まったく苛立たしい相手だった」と言わしめた。組織力で相手のチャンスを潰すスタイルは、見事に機能したのである。
決勝トーナメント1回戦は、パラグアイ相手に延長でも決着がつかず、PK戦で苦杯をなめたが(これは公式記録では引き分けとなる)、この結果ネット上では「岡ちゃん、ごめんね」という書き込みがあふれた。見事なまでの掌返しで、この言葉は同年の流行語大賞候補にまでなった。
とどのつまり、ハリルには同じ事を期待できない、と協会が判断した結果としての解任であったわけで、中西氏の発言もこれを裏付けたものだろう。これでは私も、今次のワールドカップでたとえよい結果が出ても(選手のコンディション次第では1次リーグ突破もあると思う)、「西野さん、ごめんね」とは口が裂けても言わないぞ、と決意を新たにする他はない。
この決意を覆すことがあるとすれば、それは西野監督が今次の大会で結果を残した時ではなく、逆に、敗軍の将の汚名に甘んじたとしても、4年先、8年先のワールドカップで優勝候補と呼ばれるような日本代表の礎を築く選択をした時だ。具体的には、10歳から5年近くをFCバルセロナの下部組織で過ごし、現在はFC東京、そして19歳以下の日本代表で才能を開花させつつある16歳の久保建英。
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