変わる東アジアの安全保障 米朝首脳会談総括 その4
Japan In-depth / 2018年6月30日 11時58分
▲写真 2018年6月12日 シンガポール・セントーサ島にて、金正恩北朝鮮委員長と握手するトランプ米大統領 出典:在日米国大使館・領事館
朝鮮半島で北朝鮮が軍事脅威ではなくなった新情勢の影響は単に米韓両国や日本にとっての変化だけでなく、アジア太平洋全域への影響を広げるだろう。一つにはアジア駐留の米軍が長年の最大任務をなくすことにもなりかねないからだ。
▲写真 朝鮮半島東部のTerminal High Higitude Area Defense(THAAD)敷地を訪問した米軍 出典:在韓米軍公式サイト
北朝鮮の平和的姿勢が虚構だという可能性はもちろんある。トランプ政権側もそれに備えて、これまでの厳重な経済制裁はまったく緩めてはいない。
北朝鮮側が万が一、米朝会談での誓約をまったく破り、核武装への再度の試みや対米軍事対決の再度の構えをとるような場合、トランプ政権は完全にだまされたことになる。その結果、トランプ政権がかねて示唆してきた軍事攻撃をも含めての強硬な行動に出る可能性がきわめて高くなる。実際に衝突が起きれば、年来の「アメリカv.s.北朝鮮」という、なかば固定された対立の構図は消えることになる。勝敗の明白な軍事衝突が起きるからだ。
その一方、トランプ大統領が米韓合同軍事演習の中止を発表したように、アメリカ側は現実には北朝鮮を脅威とはみないことを証する動きをもとり始めた。東アジア駐留の米軍にとって北朝鮮が明白な脅威ではなくなるとすれば、その長年の任務の主要部分が消えることになる。アメリカにとっての中国の軍事脅威は潜在、顕在に残るが、朝鮮半島への身構えはがらりと変わってしまうわけだ。
第二の変化は北朝鮮と韓国の関係全体である。
▲写真 2018年6月12日 板門店の軍事境界線越しに握手する金正恩北朝鮮委員長と文在寅韓国大統領 出典:flickr Republic of Korea(韓国公式アカウント)
4月下旬の南北首脳会談とその合意を集約した板門店宣言は南北の和解、不戦から統一への希求までもうたっていた。
北朝鮮は国是として韓国を国家としてはみなさず、アメリカの傀儡として敵視してきた。韓国側も北朝鮮を危険な存在とみて敵視した。北朝鮮側は実際のテロや軍事攻撃で韓国敵視の実体を示してきた。だがいまやこの敵対関係は明らかに基本的な変化をみせ始めた。
南北の敵対が和解へと変わる。その結果、当然に予測されるのは米韓同盟の変質である。同盟の希薄化、さらには極端な可能性としての消滅もありうる。なにしろ米韓両国が同盟態勢を組んできた最大の理由は北朝鮮の軍事的脅威だったのだ。その北朝鮮が韓国にとってもう脅威ではないとなれば、北朝鮮への抑止を最大任務としてきた在韓米軍の必要性はなくなることにもなる。
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