変わる東アジアの安全保障 米朝首脳会談総括 その4
Japan In-depth / 2018年6月30日 11時58分
それでなくてもトランプ政権は韓国の文在寅政権に対して微妙な形での不信や不満をちらつかせてきた。北朝鮮の軍事脅威が明白な時期にはそれでも米韓両国とも米韓同盟の堅持を最優先させる言動をとってきた。
だがトランプ大統領と文大統領の間には北朝鮮への姿勢だけでなく中国や日本への政策をめぐっても微妙な差異を感じさせる場面が絶えなかった。
そんな土壌の上で北朝鮮の脅威を韓国が正面から否定するような流れとなったのだ。米韓関係は安全保障だけでなく政治や経済の全般にわたって距離を広げる予兆も散見されるようになってきた。
第三の変化は中国の立場である。
▲写真 金正恩北朝鮮委員長と習近平国家主席 出典:中華人民共和国人民中央政府
今回の米朝首脳会談によって大きな利益を得るのは中国だという指摘はワシントンの専門家たちの間でかなり広範に述べられている。
米陸軍大学の教授で議会諮問機関の「米中経済安保調査委員会」の委員長を歴任した中国軍事研究の権威ラリー・ウォーツエル氏は「米朝間で合意された米側の北朝鮮敵視の停止、米韓合同演習の中止、さらにはトランプ大統領の在韓米軍撤退の示唆など、すべて中国が長年、求めてきた戦略目標だから、いま中国はひそかに大喜びをしているだろう」と語った。
▲写真 ラリー・ウォーツエル氏 出典:ECONOMIC and SECURITY REVIEW COMISSION
中国が東アジアに駐在する米軍部隊の全面撤退を長期の目標としてきたことは広く知られている。中国は米韓同盟や日米同盟には反対であり、とくに両同盟の強化措置には激しく反発してきた。韓国への米軍の新型ミサイル防衛網配備にはとくに猛烈に反対し、中国領内の韓国系ビジネスの活動を弾圧までしてみせた。
だがいまや北朝鮮のミサイルの脅威を最大理由に導入されたミサイル防衛網はもうその目的が薄れたという状態となったのだ。中国にとっては願ってもない展開である。
北朝鮮もいまや中国への接近が顕著となった。金正恩委員長はアメリカの脅威を恐れて習近平主席にすり寄った。その結果、中国の北朝鮮に対する影響力が高まることは必然だろう。
中国が韓国にも北朝鮮に同時に接近して、影響力を拡大する。そうなればアジア全域での影響力を広げようとする中国の長期戦略にはぴたりと合致することになる。
こうした東アジア全域での変化は北朝鮮の非核化の進展がどうなるかは別にしても逆戻りの可能性は少ないようにみえる。
(その5に続く。その1、その2、その3。全5回)
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