非核化「ヘッカー案」の虚妄
Japan In-depth / 2018年7月4日 21時16分
島田洋一(福井県立大学教授)
「島田洋一の国際政治力」
【まとめ】
・ヘッカー案は北朝鮮に騙されるロードマップ
・北が本気で協力すれば数か月内の核廃棄は可能
・北の協力なくして非核化なし。外交解決以外の手段考えることに
【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=40850でお読み下さい。】
北朝鮮の外交攻勢に呼応するかのように、非核化プロセスについて危うい提案が米「専門家」から出てきた。米朝首脳会談(6月12日)を控えた5月28日に発表され、同日付でニューヨーク・タイムズ電子版が大きく報じたスタンフォード大学のジークフリード・ヘッカー教授らが打ち出した非核化「ロードマップ」である。
国務省や日本の外務省も同案に注目していると聞く。日本のメディアや評論家の中にも、十分な精査もせずこれを無批判に受け入れ、「米専門家によれば、非核化に少なくとも10年以上は掛かり、その間一切制裁を緩めないというのは現実的でない」などと論じる人々がいる。
例えばCNNが「尊敬される核科学者」(respected nuclear scientist)と紹介するヘッカーだが、過去に北の招きで4回訪朝し、核開発の順調な進展ぶりを「専門家」として裏書きする発言を繰り返してきた。北の「核強国」アピールに(意識的にせよ無意識的にせよ)協力してきた学者である。
▲写真 ジークフリート・S・ヘッカー教授 出典:Stanford CISAC
ヘッカーはまた、純粋に科学者としての業績はともかく、後で触れるように政治的には北朝鮮の主張を過度に尊重することで知られた人物である。
ヘッカー案は次のように要約できる。第一段階として原子炉等の停止に1年(その間、核兵器やミサイルは現状維持)、第二段階として原子炉等の解体に2年から5年(その間、核兵器は申告および削減、ミサイルは申告および無力化)、最後に第三段階として核兵器とミサイルの廃棄に6年から10年、すなわち「非核化」全体で早ければ10年、恐らく15年以上は掛かる-。
ちなみに、核問題の分析でやはり著名なワシントンのシンクタンク、科学国際安全保障研究所(ISIS)のデヴィド・オルブライト所長は、「不必要にプロセスを引き延ばすべきではない」とヘッカー案を批判し、「2、3年以内に(within a few years)すべての申告された核兵器とプルトニウム、濃縮ウランを検証可能な形で除去でき、すべての中心的な施設を特定し無力化することもできる」と主張し、独自のロードマップをホームページに掲げている。米「専門家」の意見を参照するというなら、こちらも取り上げねばアンバランスだろう。(参照:Institute for Science and International Security)
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