W杯とは見本市である 超入門サッカー観戦法 その6
Japan In-depth / 2018年7月19日 21時10分
どういうことか、順を追って説明しよう。カテナチオ、とはイタリア語で「金庫の鍵」を意味し、その名の通りイタリアで生み出された戦術だ。フィールドプレイヤー10名を、攻撃的な3人と守備的な7人に分け、相手が3人、5人と攻め上がってきても、こちらは7人で、それもゴール前に要塞を築いたかのような堅固な守備陣形をとって跳ね返す。そして相手に一瞬でも連携の乱れが生じたなら、すかさずカウンターを仕掛ける。うまく点が取れたなら、後はまた、ひたすら守る。「1−0で勝つのがもっとも美しい」というサッカー観を標榜し、セリエAというリーグに世界中からスター選手を集め、自由奔放なサッカーをしていながら、代表の試合ではカテナチオにこだわり続けていた。
ヨーロッパでは、国ごとに伝統的なサッカーのスタイルというものがあり、しばしばそれは国民性と二重写しに語られる、と前に述べた。したがって、口の悪いイングランドのサッカー・ファンなどは、「泥棒が多い国だから、フットボール選手まで鍵をかけたがるのさ」などと評したりしていた。本当のところは、アングロ・サクソンのイギリス人や北方ゲルマン(ドイツ、オランダなど)に対してフィジカルでは不利なイタリア人が、組織的な守備で互角にやりあえるようにと編み出した戦術であるらしいのだが。
クロアチアはと言えば、もともとユーゴスラビアの一部でイタリアと国境を接しており、サッカーでもイタリアから強い影響を受けていた。一方イタリアでは、21世紀に入ってポゼッション(ボール支配率)で相手を圧倒する攻撃サッカーが台頭してくると、カテナチオは時代遅れではないか、と考える人が増え、代表もパスワーク重視のサッカーへと徐々に舵を切ろうとした。これがうまく機能せず、今次の大会では出場を逃す(ヨーロッパ予選で敗退)憂き目を見たのである。これに対して、前述のように「今やカテナチオの本場」と評されるほど堅守からのカウンターという戦術に磨きをかけてきたクロアチアが結果を出したのだから、皮肉な話だ。
他にも、決勝トーナメントで日本、ブラジルを撃破したベルギーの「超高速カウンター」が好例だが、どうやらこれを機に、堅守速攻がサッカーの新たなトレンドとなって来るのかと思える。
もうひとつ、決勝戦はフランス対クロアチアという組み合わせになったわけだが、私は個人的に、イングランド対フランスという対決を是非とも見てみたかった。「サッカーの母国か、ワールドカップの母国か」という組み合わせで、こんな面白い対決は滅多にない。
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