辛い体験と期間
Japan In-depth / 2018年9月7日 12時27分
為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)
【まとめ】
・ある時期の辛い体験は長期的に人を身体的にも精神的にも成長させる。
・辛い体験がある期間を超えると自分を壊してしまうことがある。
・適切な辛い体験の期間はどの程度がいいかは、個人差がある。
【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイト https://japan-indepth.jp/?p=41865でお読み下さい。】
多くの人が語るように、ある時期の辛い体験は短期的には苦しくても、長期的には人を身体的にも精神的にも成長させるというのは正しいと思う。身体においては、一定の負荷がかかりそれに反応して適応するために変化する。このプロセスをトレーニングと呼ぶ。また自分の経験を振り返っても、競技人生で自分を成長させたのは怪我や、スランプ、敗北を思い出す。自分の殻を破るのはいつも短期的に辛い体験だった。
ただ、この辛い体験がある期間を超えて慢性的になると、成長とは逆に自分を壊してしまうことがある。筋肉痛になってもそれを無視してトレーニングし続けると、いずれ関節や筋、腱に深刻なダメージをもたらし、怪我を抱えてしまう。ややこしいのは自分が壊れるほどの長期間の負荷はマイナスだが、その手前であれば極めて高いトレーニング効果を得られることだ。
では、いったいどの程度の期間が良いのか。これがわからない。人によれば数年にわたる怪我を耐えきることもあるし、もっと短い期間でモチベーションがきれてしまうこともある。また粘り強さが災いして、痛みを堪えすぎて身体的に回復できないほどまで追い込まれることもある。競技時代にあれだけ精神的にタフだった選手が、引退して社会に適応できず悩むこともある。何がその人にとって辛いことで、どこまでが耐えきれないのかは、周りも含め本人にすらわからない。
▲写真 イメージ図 出典:Pixabay photo by jarmoluk
私の競技時代にも、辛い体験が続いたことは多々あったが、だいたい見ていたのは朝の鏡での自分の表情と、グラウンドについて仲間と会った時の気分だった。1週間ずっと表情が優れず仲間と会っても盛り上がらない時は、一定期間グラウンドを離れて好きなことをして過ごした。それが私にとっての回避方法だったが、あのまま突っ込んでいたらもっと先に違う次元に登れていたのか、それとも壊れてしまったのかは今でもわからない。
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