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福島の風評払拭に貢献する若者の熱意

Japan In-depth / 2018年10月5日 11時0分

カリム君は違う。モロッコの普通の大学生だ。勿論、原発事故の後遺症にも驚いたが、それ以上にいわき市と東京や神戸との違いが興味深かったようだ。私に「高齢者が多いのに驚いた」と感想を伝えた。東京や神戸では実感できない日本社会の現実を体感したのだろう。


福島の現状は、専門家ではなく、カリム君のような「普通の外国人」を介して世界に広まっていく。どうやれば、一般の外国人に福島に来てもらうことができるだろうか。妹尾さんのような存在が大きな役割を果たすだろう。


子供の被曝を懸念するのは、世界中どこでも変わらない。日本政府が如何に旗を振っても、海外の学校が、あえて福島に集団で旅行にくることは期待できない。カリム君が福島を訪問したのは、彼が妹尾さんを信頼していたからだ。個人的な信頼関係が風評被害対策に貢献したことになる。SNSが発展した昨今、このような形での国際交流が果たす役割は大きい。


妹尾さんについては、もう一つエピソードをご紹介したい。彼女のバイタリティがわかる話だ。


妹尾さんは、医療ガバナンス研究所でのインターンを終えたあと、9月から中国の中南大学に1年間の留学を予定していた。9月10日の夜に羽田空港を出発し、北京経由で長沙に至る航空券も手配していた。


ところが、当日の昼頃、東欧への医学留学を斡旋している企業の担当者から「日本の医師国家試験を受ける際に、中国の大学での交換留学の期間を厚労省が認めるかわからない」と連絡があった。


私どもの研究所でのインターンの期間に、彼女は厚労省のキャリア官僚と知りあっていた。「厚労省の判断は、厚労官僚に聞くしかない」と考え、その官僚に連絡した。彼は、即座に担当課長にコンタクトした。担当課長は「個別のケースなので何とも言えない」と回答したが、その官僚は「スロバキアは兎も角、中国は私の感覚では難しい」と自らの意見を教えてくれた。彼女にとって、もっとも信頼出来る情報だった。彼女は中国留学を断念した。正確な情報を入手し、適切に判断したことになる。社会人でも、ここまで出来る人は少ない。


最近、我々の研究所には慶応大学医学部1年生の西村洸一郎君という学生が出入りするようになった。彼には「いまの君では、妹尾さんと競争したら、100回やって全て負ける。その理由がわかるね」と言っている。西村君も今まで見たことがない行動力がある若者をみて、刺激を受けている。若者のエネルギーは伝播する。


残念ながら、妹尾さんは今回、中国に留学できなかった。この決断を私に伝えたとき、彼女は涙ぐんでいた。ただ、これくらいのことで挫ける妹尾さんではない。「来年の夏休みに中国に留学するつもり」という。そして、中国の友人を福島に連れてくる。


熱意は伝播する。妹尾さんに刺激を受けた西村君はスロバキアを訪問するそうだ。彼らの成長が楽しみである。


トップ画像:NPO法人医療ガバナンス研究所にて。左からカリム・モウトチョウ君、妹尾優希さん。 ⓒ上昌弘


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