プロレスの味方は、いたしかねます(上)スポーツの秋雑感 その3
Japan In-depth / 2018年10月30日 23時0分
では、私がなぜプロレスにシンパシーなど抱かないのかと言うと、これでも武道有段者なので、あれを格闘技と認める気には到底なれないからだ。20代の頃、英国ロンドンはじめヨーロッパで少林寺拳法の道場を訪ね歩いて修行し、その経験談を『吾輩は黒帯である』(小学館)という1冊にまとめさせていただいたが、その中で、アントニオ猪木が挑戦してきたら受けてやる、と書いた。私と彼が柔道でいう軽量級で戦う、という条件で。
「体重が半分になった猪木相手なら、やすやすと負けるつもりはない」
というわけだ。
……これは、真面目な話なのである。いや、少なくとも書いた当人は大真面目なのである。
「最強の武道」はなにか、などという話を突き詰めていったら、最終的にはこういうことになるだろう、という文脈で、私は前記のような文章を書いた。プロレスラーの、あの筋肉の壁のような肉体の前には、なまじの蹴り技など通用するわけがない、ということもちゃんと書いた。その前提で、どういうルールで戦うのか、という問題を抜きにして「最強」を論じてどうするのかと、私は問いかけたのだ。
プロレス界では、興行の主体となる会社を「団体」と呼ぶのだが、米国最大の団体は、スポーツではなく、台本が存在するショーであることを明らかにし、エンターテインメントの業界団体に加盟していると聞く。なんでも、その方が保険料が安い上に、株式を上場する際に(!)、業務内容の透明化を求められたからだとか。
日米以外にプロレスが盛んな国として、メキシコが上げられるが、かの国では「ルチャリブレ」と呼ばれている。スペイン語で、自由に戦う、といったほどの意味だが、その言葉とは裏腹に、ボクシングと同様、プロのリングに上がるには、ちゃんとライセンスが必要なのである。
写真)プロレス技のバックドロップ
出典)FakeZarathustra(Wikimedia Commons)
一方、わが国ではプロレスリングと言いつつ、アマチュアとプロの定義など存在しないも同然である(学生プロレスまである)。ならば、エンターテインメントに徹すればよさそうなものだが、そこまで割り切ることもできないらしい。真剣勝負というタテマエにこだわっている。
その結果としてファンが、より過激な攻防を求めるのようになったことから、危険きわまりない「空中殺法」が毎度用いられるようになり、生命に関わるような事故が繰り返し起きている。
古代ローマのコロッセオで剣闘士が戦っていた時代から、格闘を見世物にしたなら、観客はより過激で残忍なシーンを見たがるようになるものだ。
プロレス団体の側も、さすがに「仕事だから」では済まされなくなってきたらしく、危険な技を規制することも検討していると聞く。
どのような競技・イベントであれ、ファンの熱い声援が、大いなるエネルギーとなることは間違いない。しかし、それも度が過ぎるとありがた迷惑だ、ということなのだろう。
トップ写真)プロレス
出典)Hugo Fernandes( Wikimedia Commons)
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