名画で知るベトナム戦争の教訓
Japan In-depth / 2018年12月24日 17時0分
しかしいままた40年をも経て、同じ映画を観ると、反応はだいぶ異なってくる。余裕と距離感があるせいか、長い年月の経過のせいか、映画は映画としてシニカルに構えるためか。結果としては今回の観賞では映画を越えて、ベトナム戦争やアメリカ人、ベトナム人、さらにはいまのアメリカ・ベトナム両国関係というところまで考えてしまった。
教訓のように感じたのは次のような諸点だった。
まず第一はこの映画はベトナム戦争に関して、それぞれの当事者の最も醜い部分、弱い部分を描いていると思われる点だった。アメリカ帝国主義と戦って勝ったとされるベトナム革命勢力、共産勢力はその将兵が捕虜をロシアン・ルーレットという残酷なゲームの材料にする。民族解放の闘士たちも実は残虐な加害者だった、というわけだ。
南ベトナム政府の軍人たちも民衆を弾圧し、搾取する様子が描かれる。フランス人ビジネスマンも戦争の当事者の両方から漁夫の利を得る腐敗分子となっている。アメリカについても映画の主人公たちのような質朴な青年たちに国家がひどい犠牲を強いるという失態が強調されていた。
第二はベトナム戦争のむなしい部分がことさらに強調される点だった。ただしベトナム戦争は革命勢力からみれば民族独立と共産主義革命のための歴史的な大勝利だった。だが共産主義には同調しなかった南ベトナムの政府や国民にとっては完全な敗北だった。アメリカにとっては大挫折である。
ところが大勝利を飾り、全ベトナム人を外国勢力の支配から解放したという新生ベトナムから肝心の人民たちが大量に国外へと逃げ出すようになった。全土を統一した北ベトナムはベトナム社会主義共和国という名称の国家となったが、その後の20年にもわたり共産主義支配を嫌って国外に脱出する一般ベトナム人が数百万という数にも達した。
▲写真 ベトナムから脱出した難民(ボートピープル)出典:U.S.National Archive
第三には、新生ベトナムは宿敵としたアメリカに接近し、その支援を求めるようになった点である。なんのための対米闘争だったのかとも思わせる歴史の皮肉な展開だった。
ベトナム社会主義共和国はあれほど憎い敵だったはずのアメリカとの国交樹立を切望するにいたった。経済的にもアメリカとのきずなを求めた。中国と敵対した新生ベトナムは軍事的にもアメリカの支援を求めるのだった。アメリカとこれほどに一体になりたいのだったら、なぜあれほど激しく米軍と戦ったのか、といぶかるほどの対米接近だったのだ。
第四には、それでもなおアメリカはアメリカ国民にとっては愛すべき偉大な国家として描かれている点だった。
最終場面はニックの葬儀とその後の親族や友人たちの会食だが、彼らはそこでごく自然にアメリカの愛国歌とされる『ゴッド・ブレス・アメリカ(神よ、アメリカを祝福し給え)』を唄うのだった。
やはりアメリカ人は自国がどんな苦痛にあっても、錯誤をおかしても、国を愛し、神にその祝福を祈る、というわけだ。この場面はいまのアメリカでトランプ大統領の「アメリカ第一主義」がなぜ支持されるのかを説明しているとも感じさせられるのだった。こんなところが私の『ディア・ハンター』再鑑賞の感想だった。
トップ写真:ベトコンに白リン弾を投下する米軍 1966年 出典:National Musium of the US Air Force
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