パフォーマンス理論 その3 親
Japan In-depth / 2019年2月16日 11時0分
二つ目にうちの両親は生来の性格もあったかもしれないが、陸上を始めてからすぐに、頑張れとも、負けるなとも、こう走れとも、諦めるなとも言わなくなり、私の競技に口出ししなかった。スランプになってもメダルを取っても競技のことにはさほど触れず淡々としていた。父親は生前母親に、息子の人生の邪魔にならないようこちらはひっそり生きていこうと母親に言っていたそうだ。
自分の子供に才能があるとわかった瞬間にはどこの家でも興奮するようで、私の母親も私が運動会ですごい勢いで走るのを見てこれは大変なことになったと思ったそうだ。スポーツでは、親のこの興奮が止まらなくなってしまうことがよくある。次第に周りが見えなくなるぐらいはまり込み、子供の練習量が増え、大人顔負けで勝負に賭けるようになっていく。その状態が数年続くと、大体子供は心身ともにすり減って走れなくなっているのがパターンだった。子供心ながらに、子供より親の方が勝ちたそうだな、と思っていた。才能がある選手はサポートが足りなくて潰れるというより介入されすぎて訳が分からなくなって潰れるほうが圧倒的に多く、私はそれがなかったので運が良かった。
また特にスランプなどの苦しい時に乗り越えられたのは、一喜一憂せず淡々とこなしていたから続けられたことが大きいように思う。余談になるが、諦めやすい人間と諦めにくい人間の差を調べた実験ではリアクションが大きい人間の方が諦めやすいと出たそうだ。
三つ目に私の母親は何かにつけて人の話を聞いて感心する癖がある。孫に言われたことでも、誰に言われたことでもははーなるほどと言って感心する。これは母方の祖母もそんなところがあって、子供心ながらに人が話す話に耳を傾けて面白がって驚くのが当たり前だという感覚をもった。私はコーチをつけず一人でトレーニングをしてきたが、ほとんどの学習は人から学んだから、もし相手が教えたいと思えない聞き方だったり、または聞いている内容を素直に受け取れなかったら成長が鈍化していたと思う。
他人とコミュニケーションを取る能力は、競技人生の前半は(本当の天才ならずっと必要ないのかもしれない)さほど必要ないと思うが、レベルがあがり技術の伸びも鈍化し、細かな部分で差がつくあたりになってから、重要になる。他人に質問したり、他人が話している内容から学べる人間との差がここあたりでつく。
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