バブル時代の歩き方(下)~ロンドンで迎えた平成~その2
Japan In-depth / 2019年3月21日 13時58分
▲写真 プラザ合意が行われたプラザホテル 出典:Wikimedia Commons
株や不動産だけではなく、美術品などもマネーゲームの対象となり、とどのつまりは、「カネがカネを生む」という幻想から、皆が逃れられなくなってしまったのである。
実体経済とかけ離れた景気の過熱がいかに危険かは、ここで詳述するまでもないことで、日銀が「バブル退治」に踏み切ったこと自体は、当然と言えば当然のことだ。少なくとも、タイムマシンを使って阻止しに行きたくなるほどの愚策であったとは、私は思わない。とは言え、結果論であることを承知で言わせていただければ、やり方があまりに拙速で、なおかつ乱暴すぎた。
1990年3月の、総量規制=土地関連融資の抑制を皮切りとする、急激な金融引き締めが、いわゆるバブル退治の実態だが、この結果日本は「失われた20年」と称される、戦後最長にして最悪規模の不況に突入することとなる。
バブル景気の波が、地球を半周して英国ロンドンにまで及んだことはすでに述べたが、不況の波も、容赦なくロンドンにまで及んだ。バブルの時期には、中小の証券会社から地方銀行までがロンドンに駐在員を送り込み、それにともなって、日本レストランや前回紹介したカラオケ・バー、ラーメン店などの新規開店が相次ぎ、日本人駐在員向けの不動産屋、医療機関に美容院、ついには「日本人専用の英語学校」がロンドンで開校する(これまた、あり得なくね、だが)までになったのである。こうした「バブリーな」経営者たちは、バブル崩壊にともなって、続々とロンドンから撤退に追い込まれたことは、言うまでもない。
もう時効だと思うので書くが、バブル期に、オフィス機器を扱う会社を急成長させ、メルセデス・ベンツの最高級モデルを乗り回していた人が、3年後になにをしていたかと言うと、日本からいわゆる風俗嬢を観光ビザで呼び寄せて、大々的に広告などは出せない「サービス業」に転向していた、という例まである。車も中古の日本車になっていた。
繰り返しになるが、バブル景気が実体経済とかけ離れたものであった以上、こういったことも、遅かれ早かれ起きたに違いない。しかし、この場合の「遅いか早いか」は、結構大きな意味を持っていたのではないだろうか。
さらに言えば、日本経済が急激に凋落したことで、ロンドンにおける日本人ビジネスマンのステータスも、だいぶ違うものになってきた。かつては、あのマンチェスター・ユナイテッドのメインスポンサーがSHARPであったのをはじめ、多くのクラブが、胸に日本企業のロゴを大書したユニフォームを着用していた。つまり、日本企業の名は、ホワイトカラーのビジネスマンにとどまらず、サッカーを愛する労働者階級の間にも知れ渡っていたのである。
▲写真 SHARPがスポンサーだった時代のユニフォーム 出典:Flickr; edwin.11
それが、今や日本企業の名刺を持っていてさえ、「あなたは中国人?それとも韓国人?違うの?それじゃ一体、どこの人?」という扱いを受けることも、珍しくなくなってきていると聞く。
「バブルなんて、間違ってた。それは百も承知の上でね」と、ある日本人ビジネスマンが溜め息混じりに語った言葉が、今も耳に残っている。「だけど、あの頃の日本には、まだ〈なにかがあった〉という気がしてならないんだよね」
(本シリーズ上、中。全3回)
トップ写真:株価ボード(イメージ) 出典:フリー素材.com
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