英国料理が美味しくないわけ
Japan In-depth / 2019年4月20日 18時0分
▲写真 フランス料理(イメージ)出典:pixabay; takedahrs
アジア人に言わせれば、こんなものは負け惜しみに過ぎないし、そもそも、大戦終結後までインドシナ半島の支配に固執して、ヴェトナム戦争の原因を作っておきながら、よく言うわ、という話だが。
ただ、公平に見てロンドンよりもパリの方が食事が断然おいしいことは事実である。レストランだけではなく、そのへんの屋台のホットドッグや駅構内で買い食いするサンドウィッチまでが段違いだ。
問題はその原因だが、私は長きにわたって、英国人というのはそもそも食に関心が薄いのだろう、と半ば決めつけていた。『A Year in Provance 南仏プロヴァンスの12か月』(ピーター・メイル著・邦訳は河出文庫)という本がベストセラーとなりTVドラマ化もされた時、旧知の英国人ジャーナリストに、「僕はロンドンに10年いたけど、あの人(著者)みたいに食べ物にこだわるイギリス人に会ったことがないよ」と言ったものだ。
その時は、相手も苦笑しただけだったが、その頃から(20世紀も終わり頃の話だが)、私はひとつの疑問にとらわれるようになった。
もともと英国は、属領ブリタニア(これがブリテンの語源である)としてローマの支配下にあったわけだし、英国王室の歴史をひもとけば、フランス北部のノルマンディー地方から侵攻してきた(いわゆるノルマン・コンクェスト=1066年)征服王朝に、その起源が求められる。
▲写真 ノルマン・コンクェストを表したタペストリー 出典:Flickr; Dennis Jarvis
つまりはラテンの文化を大いに受容する下地はあったはずなのに、どうして「独特の」食文化が育つに至ったのか。世上よく言われていたのは、南ヨーロッパのように食材が豊富ではないため、どうしても食に対する関心が薄くなったのだ、ということだが、実際に住んでみた経験から、そこまで言い切ってしまうのは躊躇する。
たとえばスコットランドだが、たしかに北海からの冷たい風にさらされて気候は厳しく、荒涼たる風景が広がっている。しかし、この風のおかげで、塩分を豊富に含んだ牧草が育ち、これが結構な飼料となるので、おいしい牛肉や羊肉が得られる。
それに、メキシコ湾流のおかげで実は緯度が高い割には温暖だし、日本列島周辺と同様、ブリテン島を囲む海も、暖流と寒流がぶつかるので、良質の漁場だ。
つまり、食材の点でも、さほど条件は悪くないのである。そこで色々と調べてみたところ、やはり英国の農村では、貧しくはあったけれども、それなりに食事を楽しむ文化がちゃんとあったことが分かった。
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