宗教改革と「海賊国家」 悲劇の島アイルランド その2
Japan In-depth / 2019年6月1日 18時22分
昨今、国際社会から白眼視され、経済制裁を受けている国が「瀬取り=会場密貿易」を続けているとして問題になっているが、16世紀のイングランドの行為は、それどころの騒ぎではない。事実スペインからは「海賊国家」と非難されていた。
もちろんここでも、イングランドにはイングランドの論理がある。スペインによる侵略の脅威にさらされている以上、その経済力に打撃を与え、海上輸送能力を削ぐことは、国防上きわめて有効な手段であった。
それゆえ16世紀イングランドの人々の目に映る「カリブの海賊」とは、冒険心と愛国心を兼ね備えた勇者たちだったのだ。
写真)海賊黒髭と闘うメナード大尉
出典)Wikipedia
20世紀以降のハリウッド映画や日本の漫画にまで、こうした世界観が持ち込まれるとは、まさか思わなかったであろうけれども。
話を戻して、信仰の面からも、また経済的な思惑からもイングランドに対して堪忍袋の緒が切れたフェリペ2世は、1568年、無敵艦隊を差し向けて来た。
これを迎え撃ったイングランド王こそ、エリザベス1世女王である。彼女はなんと、海賊の親玉であったフランシス・ドレイクをイングランド艦隊の副官(事実上の司令官)に任じた。そのドレイクは、遊撃戦法で無敵艦隊を疲れさせ、最後は薪などの可燃物を満載した船に火を放って敵艦隊のまっただ中に突入させるという特攻作戦で、辛くも勝利を得た。
写真)フランシス・ドレイク
出典)Art UK
かくして、イングランドがやがて連合王国=英国となり、スペインに代わって「日の沈むことなき帝国」の座を得るに至る道が開かれるのだが、それはまだ先の話で、無敵艦隊を追い返したからと言って、スペインの脅威が消えたわけではなかった。
そしてこのことが、アイルランドの運命を一層悲劇的なものとする。
これまたイングランドの立場から見れば、スペインを中心とするカトリック勢力を正面と見て対峙した場合、カトリック国アイルランドは「背後の脅威」以外のなにものでもない。事実、前述の無敵艦隊は、まず北方に遁走した後、ブリテン島北部を迂回してスペインに逃げ帰ったが、一部は途中アイルランドに寄港して補給を受けていた。この間イングランド艦隊はと言えば、兵糧の準備が充分でなかったため、再度の出撃はできなかったのである。このためイングランドは、アイルランドを制圧すべく、派兵を繰り返し、1600年代からは世に言うアルスター植民を開始した。
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