権威回復目論む金正恩の狡猾
Japan In-depth / 2019年6月16日 19時0分
朴斗鎮(コリア国際研究所所長)
【まとめ】
・「粛清報道」拡散恐れ?「誤報」と印象付ける世論操作。
・欺瞞のためなら粛清した人物の映像をも狡猾に利用する金正恩。
・「クロスチェック」と「合理的推理」で金正恩の嘘を見抜け。
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ハノイ米朝首脳会談(2019年2月27日及び28日)失敗で自身の権威を大きく失墜させた北朝鮮の金正恩委員長は、その権威回復の方法として、まず金英哲(キム・ヨンチョル)統一戦線部長をはじめとした実務者の思想点検・処罰・粛清を行いスケープゴートとし、次に韓国の文在寅大統領に対しては「仲介者」などと出しゃばらずに自身(金正恩)のために働けと脅迫し、そして会談破綻の主犯を米国のポンペオ国務長官やボルトン安保担当補佐官らに押し付けた。
■ 権威回復の手始めは責任転嫁
ハノイ米朝首脳会談失敗の責任転嫁のために、金正恩が党副委員長の金英哲を労役に、妹の金与正(キム・ヨジョン)を謹慎に、そして統一戦線部室長の金聖恵(キム・ソンヘ)と通訳を強制収容所送りとし、対米交渉特別代表だった金赫哲(キム・ヒョッチョル)を処刑したと朝鮮日報が報道した(5月31日)。ポンペオ米国務長官は、この報道に対して否定も肯定もせず「確認中」という答弁だけを出した。
だがこの報道に対して、金正恩は異例の速さで反応した。重要行事に金英哲と金与正を登場させて「粛清報道」が「誤報」であると印象付ける世論操作を行った。それだけこの報道の拡散が怖かったと見られる。
▲写真 6月5日にDPRK twitterに掲載された写真。4日の朝鮮中央通信によると、金正恩委員長は3日、平壌のメーデースタジアムで始まったマスゲーム・芸術公演を観覧。金与正氏も同席。写真には、拍手する与正氏(手前左から2人目)が写っている。出典:DPRK twitter
いまだに姿を現さない金聖恵の処遇や、特には金赫哲の処刑説については未確認ではあるが、健在ぶりを示すために出てきた金英哲が統一戦線部長を解任され幹部席の末席に座らされたことや、慈江道(チャガンド)視察に金与正が同行しなかった(玄松月が同行)ことを見ても、対米交渉関係者に処罰が下されたことは明白だ。また金正恩時代になって処罰から粛清という話もよくあることだ。
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