習近平訪朝で北の非核化暗雲
Japan In-depth / 2019年6月28日 18時0分
この時期、多くの北朝鮮ウォッチャーは、金正恩の「自主路線」で「中朝同盟は解消されるかも」と大きな関心を寄せた。しかし、こうした強烈な「自主路線」からわずか2年、北朝鮮は、180度の「変身」で再び中国にすり寄り、今回朝中蜜月を誇示した。この「変身」は、北朝鮮の国力と地政学的位置から見て予想されたことではあったが、これまでにはない落差の大きさに驚いた人たちは多かったに違いない。
■ 対中「自主」から「従属」への路線転換
ではこの「路線転換」の背景には何があったのだろうか?
第一は、文在寅政権との共同による「対米自主外交」の失敗があったと考えられる。それはハノイ会談での失敗で明確となった。
金正恩委員長が当初狙っていたのは、中国の支援を米国の軍事行動に対するけん制にとどめて、文在寅政権との「平和ショー」と南北融和の「民族どうし」で、対米非核化交渉を行うことであった。「段階的同時並行的解決方式」で核保有を維持したまま制裁解除を勝ち取ろうとしたのである。シンガポール米朝首脳会談までは、思惑通り進んだ。
しかし「金正恩委員長は完全な核放棄を決断した」との文政権の対米「二枚舌外交」がバレたことによってこのシナリオは崩れて行く。文在寅政権に対する米国の信用は地に落ち、「ウソ(lie)つき」呼ばわりまでされた。また国際的空気を無視した文在寅の対北朝鮮制裁緩和と大々的経済援助「約束」は、日が経つにつれて不渡りが濃厚となった。
そればかりか、統一戦線部を通じて文在寅政権から得ていたトランプ政権情報も、何の役にも立たなかった。むしろ金正恩の判断を狂わす材料となっただけだ。ハノイ会談当日、文大統領をはじめとした韓国の全閣僚と与党が、「成功」を確信してテレビにかじりついていたことを見ても韓国情報がいかに不正確であり、韓国情報機関がいかに無能であったかが分かる。
韓国情報は、的をはずしていただけでなく、金正恩の権威を大きく傷付ける結果をもたらした。落坦と怒りに震えた金正恩は、金英哲統一戦線部長をはじめとした対南、対米交渉ラインを問責・処罰しただけでなく、返す刀で文在寅に対して「仲介者などと出しゃばったマネをするな」と罵倒した。
第二は、北朝鮮独自の力では、米国の要求に対抗できなくなったことだ。
ハノイ米朝首脳会談での失敗は、金正恩の権威を大きく失墜させた。また経済制裁が長引く状況が明確となり、北朝鮮住民の不安はこれまでになく高まった。北朝鮮経済のマイナス成長が顕著となり、2016年の朝鮮労働党第7回大会で提示した「国家経済発展5カ年戦略」はほぼ実現不可能となった。こうした事態を早急に収拾しなければ、指導部内部の動揺と住民の不満が高まり、金正恩体制は持たなくなる。金正恩は崖っぷちに立たされたのである。
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