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パフォーマンス理論 その8 イメージトレーニング 

Japan In-depth / 2019年7月3日 7時0分



試合会場に入る前にだいたいのことはイメージの中で終えておいた。当日はじめて出くわす状況がないように。当日は雨が降ったり、晴れたり、様々な状況に適応したシナリオをピックしていっていた。これは最初のうちはうまくできなかったが、イメージトレーニングを繰り返すことで徐々にクリアに頭の中で描けるようになった。また飛躍し過ぎたイメージトレーニングはうまくいかなかった。自分が精一杯ジャンプして手の届く範囲のイメージしか人はありありとは描けない。遠過ぎたイメージを繰り返してもリアリティがなく、自分の中で潜在的に否定をしてしまう。願望を描くことと起こるべきことをイメージするのは質的に違った。



余談になるが、ネガティブなイメージから抜けられない選手はこのイメージトレーニングが自分でコントロールできず、しかも過去のよくない体験をあたまの中で繰り返してしまっているように思う。あたまの中で繰り返せばそれは積み重なって強化されてしまい余計に繰り返しやすくなってしまう。前向きな選手は現実を正確に捉えているのではなく、都合よく捉えている。うつ病患者は、健常な人よりも現実を正確に捉えていることを示した研究もある。イメージトレーニングは過去を都合よく編集し、自分にとってありたい未来を描く能力と言い換えることもできる。



さて、具体的なイメージトレーニングのやり方だが、実は私にもわからない。もしアドバイスをするなら、自らの情動をしっかり繋げることではないかと思う。私はメダルを取る前にイメージトレーニングでメダルを取って泣いたことが少なくとも十数回はあるが、金メダルを取るイメージトレーニングではどうしても泣けなかった。金メダルを取るシーンは私にとって、音もなく色もついていない映画のようでリアリティがなかった。銅メダルのイメージしか描けないから銅メダルしか取れなかったのか、それとも実際の自分の限界をリアルに反映したものしかイメージできないから銅メダルだったのかはわからない。一つ言えるのは、主観的体験は情動によって強化されるということだ。もう一つ大事なことは、自分の体を多少動かしながらその状況を表現することは効いた。人間の記憶やイメージは頭の中だけではなく、身体がトリガーになって引き出されていることもずいぶんある。だから身体を使いリードしながらイメージを作り上げていくわけで、これがルーティーンが有効とされる根拠だと思っている。



私は手前味噌だが、言語化が得意だと言われていて、それにはこのイメージトレーニングが影響しているように思う。人よりも身体イメージの解像度が高いらしい。私はこの能力は「没頭+体験+繰り返し」で強化されると思っているが、この能力と言語化能力が関係しているように感じている。



付け加えて今生来のブラインドの選手がイメージトレーニングを行うということにとても興味を持っている。健常者は視覚優位のイメージから離れられないが、もしそれを超越できるならそのイメージはどんなものなのかを知りたい。


 


(この記事は2019年2月25日に為末大HPに掲載されたものです)




トップ写真)Pixabay Photo by skeeze


 




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