パフォーマンス理論 その10 ブランディングについて
Japan In-depth / 2019年7月5日 7時0分
ブランドは知名度ではなく、個々人の人間の記憶にどの程度深く根ざしているかだと今は考えている。国民的スターという存在も確かにあるが、それは全体のほんの一部で、全員の記憶に深く刻むのはとても難しい。またどこかから評価を受けていること自体が、違うエリアでの評価を下げることにもなる。つまりブランディングをしたいと考えるときに、誰にどう思われたいのかを先に設定しないとどうにも進めないということだ。私は誰かに評価されたいというのは一義的な目的ではなかったが、陸上に没頭した結果内省能力が高まり、そのことを特定の人に評価されている事はうれしいし、励みになっている。
3、アスリートの実績は残るが、人気はいずれなくなる。
確かに実績は残るが、人気はいつかなくなる。それも選手が思っているよりも早いペースで。私は引退間際にアメリカに住んでいて、だいたい3ヶ月に一回日本に戻っていたが、あっという間にテレビに出ている人が入れ替わっていることに衝撃を受けた。もちろん、スポーツの場合は普通の有名人と違いテレビに出ていなくても、選手の実績は揺るぎない。しかし、これはその実績に対する評価であって、本人に何ができるのかという評価は引退して徐々に変わっていく。選手時代はパフォーマンスは試合ですればいいし露出機会も減らないからイメージだけで人気が保てた。ところが引退してからは常にニュースを出していくか、または競技以外の何かで実績を出さなければならないので違う能力が必要になる。残酷だけれども、引退して何かをしたいと思っているアスリートはこの急に自分の人気が落ちていくことをそれなりに理解しておいた方がいいと思う。繰り返しになるがそれでも見てくれている人はいて、そういう一部の人の記憶の中では自分のブランドは揺るぎない。その数が引退した時に想像していたよりも少ないだけの話ではあるが。
余談だが、ある程度ブランドができると、それを守るために新しいことを始めなくなる。新しい事は失敗する可能性が高いので、失敗してブランドが傷つくのを嫌がるからだ。ところが何か新しい挑戦をしなければ当たり前だけれど人は成長しない。この一度確立してしまったブランドをどう壊しながら挑戦していくかはとても大事で、特に選手のブランドで食っているマネジメント事務所との間ではバランスを取る必要がある。私は長期的に見て守るより攻めた方がいいと考えているので、ブランドを一時的に傷つけたとしても挑戦を繰り返した方がいいという立場に立っている。
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