パフォーマンス理論 その19 停滞について
Japan In-depth / 2019年7月14日 7時0分
特に競技人生後半は、経験がたまりかなりのことに予測が効くようになる。こういった時にブレイクスルーを起こすためには、自分で自分を驚かせなければならないが、考えてみると自分で自分を驚かせることには矛盾がある。自分で自分をくすぐってもくすぐったく感じないのは自ら意識し、その予想もついているからだ。驚きは自分の知らない何かが潜んでいなければならない。想像の範囲の外に行きたいのだが、自分自身が想像している以上それは自分の範囲を出ることが難しい。
また秩序は一定期間を過ぎれば腐敗する。秩序が生まれ、それが一定期間すぎると、目的のための秩序であることを人は忘れ始め、秩序が保たれることそのものが目的になる。結果として、そのような集団や個人は、変化しにくくなる。環境が変化しないのであればそれでも問題はないのかもしれないが環境は常に変化する。先の例で言えば何度もなんども水を通した溝は強固になり、どのような流し方をしても同じ場所を通そうとしてしまう。私はこのような状態が停滞だとみている。
ではどうすれば停滞は打破できるのか。それには混沌状態に少し引き戻すしかないが、私は揺さぶりが重要だと考えている。スポーツでコーチが果たす役割の一つは、選手が停滞を始める早い段階で相手に揺さぶりをかけまた混沌状態を生み出し引き上げることだ。それが良いことだとは思わないが、スポーツ界に無茶振り文化や、ハラスメント文化があるのは、この揺さぶりによって本人の思う限界から外に引き出そうという効果が狙われているからだと思う。私はコーチがいなかったから自分で自分を揺さぶるしかなかった。先でいう自分で自分を驚かせる難しさを感じていた。
揺さぶるためには、何かを大きく変えることがよかった。私の場合は、場所を変えるか、会う人を変えることがよかった。人間は環境の影響から逃れることはできないので、環境が変わらないまま自分を変え続けるのはその環境自体が大きく変化し続けていない限りは難しい。私は意識したわけではないけれども、結果として4,5年に一度環境を変えていたが、それはなんとなく同じ場所で同じ人とい続けると自分が安心し、そして停滞してくる感じがしたからだ。初めて海外のレースに一人で出た時は、何をしていいかわからなかった。一生懸命適応しようとするその期間に自分が劇的に伸びたと感じている。秩序状態では努力と感じることが、混沌状態では適応と感じられる。適応の方が辛くはあるが、人の創造性を掻き立て、結局成長度合いが大きい。
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