ベルファスト合意成る、しかし 悲劇の島アイルランド その6
Japan In-depth / 2019年7月11日 11時0分
直接のきっかけは、1972年1月30日に起きた、世に言う「血の日曜日」事件である。この日、北アイルランドの中心都市ロンドンデリーでは、裁判なしでの拘禁を認めていた当時の法令に抗議して、およそ1万人の市民が、抗議集会後にデモ行進を行った。
▲写真 「血の日曜日」事件 出典:Flickr; Sonse
これに対して英国政府は、警察ではなく陸軍の精鋭である空挺連隊を警備に動員し、自動小銃を携えた兵士たちをバリケードの内側で待機させていた。そして、デモ隊の一部が投石したのをきっかけに、銃撃が加えられ、13人が死亡。さらに14人が銃撃や警備車両に轢かれる被害に遭い、重軽傷を負ったのである。
この事件以降、IRAは英軍や政府の施設を狙ったテロを繰り返すようになり、これも前回述べた通り、王族やサッチャー元首相までが標的とされた。
そして1980年代後半になると、当時のサッチャー政権が、事態をエスカレートさせてしまう。「英国政府はテロリストに屈することはない」
と勇ましく演説した彼女は、今度はSAS(スペシャル・エア・サービス=英陸軍特殊空挺隊。前述の空挺連隊とは別組織)を動員してIRA討伐に乗り出した。
▲写真 サッチャー元首相 出典:Flickr; Levan Ramishvili
1988年3月には、イベリア半島西端の英領ジブラルタルにおいて、3人のIRAメンバーが射殺されたが、彼らは英軍基地へのテロを企てていたとされたものの、射殺された時点では武器はなにも持っていなかった。
同年8月には、北アイルランドで国道を走行中の乗用車がSASに銃撃され、やはり3人のIRAメンバーが死亡した。
この時は、車内からソ連製AK47突撃銃などが発見されたが、こうした一連の作戦に対して、英国の一般市民が「あっぱれSAS」と拍手喝采であったかと言えば(もちろん,そういう人もいたが)、少し違う。前者については、裁判どころか逮捕状も取らず、しかも確たる物証もない容疑者を、いきなり死刑にしたようなものではないか、との声が上がったし、後者についても、どちらがテロリストか分からない待ち伏せ攻撃ではないか、との批判があった。
これまた『英国ありのまま』にも書かせていただいたのだが、テロというのは無法な暴力には違いないが、やる方も命がけである。死をも長期投獄をも恐れない、という決意がなければ、テロリストにはなれない。
そういう連中に対して、テロを企てただけで命がないぞ、と言わんばかりの脅しを加えても無駄なのである。サッチャー元首相は、そこが理解できていなかった。
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