パフォーマンス理論 その22 言葉について
Japan In-depth / 2019年7月17日 7時0分
言葉の粒度は身体の粒度と同じである。足腰と表現する人間は膝も臀部も下腿部も同じに捉えている。足腰をハムストリングということもできるし、内転筋と半腱様筋を分けて表現することもできる。言葉の粒度によって表現せんとする標的の粒度が異なる。粒度が細かければ繊細な表現ができるので、より細やかなフィードバックが可能になる。うまく足腰が使えなかったという人と大腿四頭筋ではなくハムストリングの上部が使えなかったという人では、その後のトレーニングでフォーカスする場所が違う。ぼやけた言葉を使う人のトレーニングの目的はやはりぼやけている。
言葉の定義は身体だけに限らない。努力が重要だという指導者に努力の定義を聞いてみる。仮にその指導者が、”努力とは目標に向けて何らかのストレスを伴う自らの意思によって行われる行動”と定義しているとする。そうすると目標の定義、ストレスの定義、自らの意思の定義が必要になる。目標と計画と夢はどう違うのか、ストレスと痛みや苦しみとはどう違うのか、そもそも自由意思はあるのかまで浮かんでくるかもしれない。キリがない作業だが、これをどこまでやっているかによって”努力という単語”の精度は変わる。深く考えて使われる単語からは正確さが生まれ、正確な課題を見つけやすく、正確な答えと目標を設定しやすくなる。
ではなんでも詳細に表現すればいいかというとそうとも限らない。例えば二足歩行はみな巧みに行うが、職業的に関わっていない限りそれを具体的に説明できる人間はいない。普段歩き慣れていても、人前で歩く瞬間にうまくいかなくなるのは過剰に歩行に意識が向かうからだ。運動動作はかなり無意識下で制御されているので、それを意識的に言語で表現するまたはしようとすることが必ずしもいいとは限らない。無意識でできていたことを意識的に行おうとする時に、スランプやイップスが起きる可能性がある。結局オノマトペ的なズバッとかグイッと表現した方が自然な場合もある。つい言葉にこだわる人間は冗長になりがちだが(このブログのように)、良い言葉はいつも端的だ。そして小学生にもわかる。1時間でも話せるし10秒でも話せるというのが良い。
言葉に正確でない選手は事実と意見が混ざる。”海外での一人の試合”という場合と、”海外での孤独な試合”という場合では同じ状況でも捉え方が違う。前者は事実だが、後者には一人は寂しいという感情を通して描写されている。小さな表現の違いかもしれないが、選手は単語で自分に記憶させるので、長い時間が経てば大きな違いになる。嫌いなコーチがいるとする。その場合もコーチはひどいやつだと、自分がコーチを嫌いだと思っている、では随分違う。この違いに意識的でなければ、事実と意見(もちろん自分が観察者なので究極を言えば事実など存在しないのだろうが)がごちゃ混ぜになって記憶されてしまう。事実と意見が混ざれば、考え始めの出発点が歪んでいるので、そこから出る問題点も、目標も、計画も全てずれていき、問題が毎回解決されない。そもそもコーチがいる場合、コーチに伝えること時に事実と意見が混ざっていれば二重にずれる可能性が出てくる。
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