パフォーマンス理論 その24 年齢と適応について
Japan In-depth / 2019年7月19日 7時0分
これとは逆に子供の時の見た目の動きを大人と同じにすると実際には速く走れたとしても、力の入れ方が違うので大人になるにつれうまく走れなくなるという現象が起きる。さらにこの動きを固めるために走り込んでいたりした場合顕著になる。これが早すぎる最適化だ。ある年齢でパフォーマンスを最大化させるために体に教え込んだものが、年齢を重ねて身体や環境の条件が変わってきた時に逆に成長を阻害する要因になるというものだ。野球で聞いた話では子供の頃は守備があまり上手ではないために転がすバッティングが有効だが、大人になるとみんなの守備が上手くなりこれが効かなくなる。その時昔につけた癖が成長を阻害するというものがあるらしい。これは動きだけではなく精神的な特性にも現れる。年齢が若いと情報が少ないために自分の頭で考えると逆に成長が遅いために、指導者が全部を設計した方が競技力が向上しやすい。ところが、このような状況で育つと、実際に体で表現もできるしパフォーマンスも高いのだが、何故自分がそれができているのかを本人が理解していないような状況が生まれる。こういう選手は指導者の元を離れると、練習の意図がわかっていないので、表面だけを真似していって徐々に崩れていく。これもある種の早すぎる最適化になると思う。
私は早熟だったが、子供の頃かなりほったらかしで育てられたのと、様々な競技に触れ動きが固定化されにくかったので、この早すぎる最適化があまり起こらなかったように思う。また、怪我を定期的にしたのも助けになったかもしれない。種目自体も18歳で100mから400Hに変えた。ただ、一つ自分の勘違いもあって、積極的に足首関節を使って地面をひっかくという動きを子供の頃からやっていて、その癖が生涯残ったことに悩まされた。言語と同じで子供の時に覚えた動きはネイティブのように体にしみ込むので影響が大きい。
さて、今度は20歳半ばを越え習熟してくる年齢で起き得る問題について話してみたい。
20代を境にしてそれまで強い選手と、競技人生の後半に向けて強い選手の違いは何か。私なりの分析では、自分の強みとトレーニングの要点を理解しているかどうかだと思っている。年齢を重ねると回復が遅くなる。かつ練習の質も高くなり一回の練習のダメージが大きくなる。回復が遅くなり練習のダメージが大きくなるということはリカバリーに時間がかかるようになる。リカバリーに時間がかかるということは、休みを取るために練習量を減らさざるを得なくなる。つまり、年齢を重ねても伸び続けるためには、限られた練習量の中で、より質の高い練習をする必要がある。質は最も競技力向上に重要なトレーニングを行えるかどうかにかかっている。ここで選手に差がつく。
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