パフォーマンス理論 その27 ロールモデルについて
Japan In-depth / 2019年7月22日 7時0分
私たちの時代は陸上はアメリカが圧倒的に強かった。彼らのようになりたいと思ってチームにも入り、彼らの真似をした。考え方も、動き方も、話し方すら真似をしようとした。しかし表面は真似できても、どうやってもそうなれなかった。簡単な例でいくと歩行は文化圏で違いがあるが、これは幼少期の環境に依存し、一度習得すると生涯にわたって変わることはほぼない。日本人は左右ブレが少なく上下動が少なく、歩幅は狭い。アメリカ人は左右ブレが大きく上下動も大きく、歩幅が大きい。これは人種よりも文化の影響が大きいようだ。二足歩行の延長線上に走行があるから、どうしてもこの歩行様式に引きずられる。私も体を上下に揺さぶったこともあるし、左右に振ったこともある。けれども、一緒に走りながら決定的に何か身体内で起きているリズムが違うと感じた。分かりやすく言えば、チームメイトは胴体の中心から煽るような力が出るように見えたのだが、私はどうやってもそれが出ないで水平移動にしかならなかった。
私が自分なりに行き着いたことは、真似は真似にしかなれないということだ。ただ、これを受け入れる時は心理的にそれなりに抵抗があった。変えられないものは変えられないし、なれないものはなれないと割り切ることは、逃げであり努力の否定であり、何よりも敗者の考えだと思っていた。しかし、実際にグラウンドで違う文化圏の人間と、また飛び抜けた才能の人間と対峙し続けると、どうしても変えられない特徴を直視せざるを得なくなる。自分とはどのような特徴を持った存在か。この特徴を活かした先には何があるのか。そういう考え方をするようになった。
ただ、これはだからといって海外の情報を遮断するとか、自分以外の考えを聞かないということではない。自分の変えられないものを理解し、変えられるところは変え、何事も自分らしく解釈し直して取り入れるという考えに変わったということだ。こうであったらかっこいいなという自分から距離を置き、本来の特徴を活かすように考えを変えた。大きな力を出す方向よりも水平移動を心がけて、効率化を目指した。憧れではなく、自分の延長線上にある選手をベンチマークにした。
もう一つロールモデルで陥りがちなのは、誰かが飛び抜けて活躍している時にそれが輝いて見えてつい引き寄せられてしまうことだ。私は若い時はこの傾向がとても強く、その時の旬の選手につられて動きを真似するということを繰り返し、何度も失敗した。スポーツの頂点に近い世界では、実際に科学的根拠のある情報を探そうとしても、N数が少なすぎて参考にならない。例えば9秒台で走った日本人は二人しかいない。しかも二人とも統計的には例外と言ってもよく、実際に彼らがやっていることの何が速さに影響しているのかほとんどわからない。観察して洞察するしか理解する方法がない。
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