加賀市、起死回生のMaaS導入
Japan In-depth / 2019年8月1日 11時25分
「自治体として10年、20年先を見据え、市民がもっと快適で便利に暮らせるまちにしたい」(宮元陸市長)という発想からだ。この通信機で、「どういうルートで何時間走ったか」、「どこで乗る客が多いか」など、データを入手できる。
つまり、渋滞する道路や時間帯、事故の起こりやすい場所を分析できる。この結果、4台の乗り合いタクシーのより効率的な運行の検討に役立てていく。乗客は乗車する際、自分の住む町にある停留所まで行かなければいけないが、将来的にはドアツードアの移動も可能になるという。
そもそも、加賀市では、高齢者にとって、路線バスは買い物や通院に不可欠だ。かつてバス路線は11あった。しかし、「乗客が少ないから、利益が出ず、路線バスの本数が大幅に減らされる」という悪循環に陥った。路線は現在、5つしかない。
こうした中、導入されたのは、前述の乗り合いの大型タクシーだ。ハイエース4台が市内を走り回る。距離に関係なく1回500円。バスより高いが、タクシーより安い。お年寄りに好評だが、加賀市は安住せず、さらに一歩踏み出したわけだ。
▲写真 乗合タクシー 提供:加賀市役所
加賀市はMaaSについて、「生活の足」と位置付けているだけではない。観光にも役立てたいとしている。来年度、観光客の需要に応じた乗合タクシーを導入する方針だ。例えば、観光客が加賀温泉駅に到着した後、その乗り合いタクシーで、周辺の観光地を訪れる。スマホのアプリでルート検索から予約・決済までできる仕組みとなることも視野に入れている。タクシーに比べ、低料金で移動できるのが特徴だ。
加賀市の観光客は、ピーク時に比べ半減の200万人に落ち込んでいる。しかし、2023年に予定されている北陸新幹線の敦賀延伸で、観光客の増加が見込まれており、起死回生の策に打って出た。
加賀市はMaaSについて、将来的には都市計画にも利用できると期待している。例えば、渋滞が多い道は拡幅工事したりできる。ビッグデータに基づく情報が町の形を変える。
マイカーからMaaSにシフトすれば、加賀市の地域内に落ちるお金も増えるという見方もある。「加賀市内には自動車メーカーがありません。マイカーを購入すれば、地元の販売店も儲かるのですが、多くのお金は市外のメーカーに流れます。一方、MaaSの利用が増えれば、地元のタクシー会社が儲かります」(宮元陸市長)
域内経済循環にも貢献する。その意味で、私がもう一つ、刮目したのは、加賀市が今年4月に100%出資でつくった電力会社だ。この自治体新電力は、北陸電力に代わって、外市役所や学校などの公共施設にも電力を供給する。電力自体は当面は外部から調達するが、将来的には、太陽光発電や小水力発電事業にも参入する。つまり、すべての電力を地域内で調達・供給できる体制にする。
市では現在、一般家庭企業など電気料金だけで、およそ100億円が外部に流出しているが、こうした状況に歯止めをかけたい考えだ。
MaaSと自治体新電力。別の政策のようで、「幹」はしっかりつながっている。自動運転と電気自動車という自動車業界の大変革を見据えた政策なのだ。さらに、加賀市は、小中学生へのプログラミング教育もいち早く、実践している。有名ブランドの温泉街という地位に安住せず、次々に手を打つ。そんな攻めの姿勢こそ、人口減少時代に必要になってくる。
トップ写真:次世代の移動サービスに関する協定を結んだ宮元陸市長(右)とモネ・テクノロジーズ株式会社柴尾嘉秀副社長(左)加賀市役所にて 提供:加賀市役所
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