英仏「信念の政治家」の相克(下)今さら聞けないブレグジット その6
Japan In-depth / 2019年8月1日 13時43分
しかし中長期的に見れば、加盟国の財政負担軽減と食糧の安定供給を同時に実現することが期待できる良策であるとして、次第に賛成論が上回っていった。
サッチャーまで賛成に回ったというのは、彼女はもともとこうした「大きな政府」の考え方は好きではなかったのだが、当時の英国政府にとっては財政再建こそが最重要かつ喫緊の課題であったため、反対論を展開しようにも、その基礎となる大義名分がない、という判断であったものと考えられる。
しかし、次のステップには、さすがについて行けないようであった。次のステップとは、政治統合である。
1986年に起草された「単一欧州議定書」を基礎として、ヨーロッパに「国境なき国家連合」を出現させようというものであったが、これに対してサッチャーは、「この議定書の批准を英国議会で論ずる考えは、毛頭ありません」と言い切った。
サッチャーは、フランスと西ドイツ(当時)の左翼が牛耳っているドロール委員会など、唾棄すべきものと言ってはばからなかったし、さらに言えば、なかなか強硬な反共主義者であった彼女の目には、ドロールの行き方は、かつてマルクスの盟友だったフレードリッヒ・エンゲルスが唱えた「ヨーロッパ社会主義連邦」が形を変えて登場してきたものであると映ったのだろう。しかし、歴史はサッチャーでなくドロールを選んだ。
▲写真 ジャック・ドロール氏 出典:Wikimedia Commons; User:nvpswitzerland
1989年に冷戦が終結し、東西ドイツの統一が現実的な政治課題となったことで、ヨーロッパ統合の動きは再び加速する。
今度は「ソ連の脅威」に対抗するためではなく、ソ連の強い影響下にあった東欧諸国が相次いで民主化を成し遂げ、そこに統一されたヨーロッパの市場経済が出現したら、雪崩をうって参加してくるに違いない、と考えられた。
実際問題として、現在(この原稿を書いている2019年7月末の段階では、英国を含む)のEUの人口は、およそ5億人。それも、世界でもっとも生活レベルの高い5億人であるから、市場経済の立場から、これを無視することは絶対にできないのである。
……話が少し先回りした。ヨーロッパ統合を強力に推進するドロールの主導で、1992年に欧州連合条約が締結され、翌93年11月1日、EU(欧州連合)が発足する。
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