英仏「信念の政治家」の相克(下)今さら聞けないブレグジット その6
Japan In-depth / 2019年8月1日 13時43分
これに先駆け英国では、サッチャー首相が退陣に追い込まれるという事態が起きた。
冷戦を「勝利」に導き、英国経済を復活させた立役者として、大衆的人気を誇っていたサッチャーではあったが、ふたつの理由から、英国の財界、そして財界の強い影響下にある保守党主流派から見放されてしまったのだ。
理由のひとつは、新自由主義経済の負の側面である格差の拡大で、このため大衆的人気にも陰りが見えてきていた。そしてもうひとつ、ヨーロッパ統合をむやみと敵視するサッチャーの政治姿勢は、「英国を〈名誉ある孤立〉ではなく、単なる孤立へと追いやる」と見なされたのである。
この間の政治状況については『サッチャー回顧録』(邦訳は日本経済新聞社)を読むとよく分かる。もちろん彼女の立場からの一方的な主張ではあるが、統合されたヨーロッパという巨大で魅力的な市場を失うことを恐れた保守党議員たちが、それまでの英雄扱いから掌を返すようにして「サッチャー降ろし」に動いた経緯がよく分かる。
結局サッチャーは辞任し(1990年11月28日)、後継者となったジョン・メージャーはECとの関係改善へと政策の舵を切ったのだが、1997年の総選挙では、「英国のために、欧州でリーダーシップを取る」
との公約を掲げたトニー・ブレアに敗れ、18年ぶりの労働党政権誕生となった。
▲写真 トニー・ブレア首相 出典:Air Education and Training Command
お分かりだろうか。
今次のブレグジットは、突如持ち上がった問題ということでは決してない。
1960年代に、当時のEECに対抗してEFTAを立ち上げた時、そして1980年代末期のサッチャーとドロールの暗闘に続き、英国がヨーロッパ統合の動きに背を向けようとするのは三度目なのだ。
過去の二回は、再三述べてきたように、巨大な市場を失いたくない、との意見の前に、押し切られてきた。
7月24日、EU強硬離脱派のボリス・ジョンソン首相が「誕生したが、これでいよいよ三度目の正直となるか(英語にも、サードタイムズ・ラッキーという言い方がある)、それとも二度あることは三度ある、という結果に終わるか。
その話題はさらに稿をあらためることにして、次回は統一通貨ユーロについて見る。
(その7に続く。その1、その2、その3、その4、その5)
トップ写真:マーガレット・サッチャー首相 出典:Flickr; Levan Ramishvili
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
英保守党、地滑り的大敗も=ブレア政権誕生時に酷似―退潮鮮明、スナク首相苦境
時事通信 / 2024年5月6日 14時13分
-
イギリス地方選で与党・保守党が大敗、支持率最低レベル…14年ぶり政権交代が現実味
読売新聞 / 2024年5月6日 0時4分
-
【1979(昭和54)年5月4日】英国初の女性首相としてマーガレット・サッチャー氏が就任
トウシル / 2024年5月4日 7時30分
-
赤狩りと恐怖の均衡について(中) 「核のない世界」を諦めない その4
Japan In-depth / 2024年4月26日 17時0分
-
プーチンを相手に「ヒトラー宥和政策」の失敗を繰り返すのか? 当時よりもひどいトランプ一派
ニューズウィーク日本版 / 2024年4月11日 21時26分
ランキング
-
1【速報】“首謀者”は娘の内縁の夫か 新たに30代の男を死体損壊の疑いで逮捕 栃木・那須町夫婦遺体事件
日テレNEWS NNN / 2024年5月6日 23時40分
-
2〈速報・那須2遺体〉“全身刺青”の宝島さん娘の内縁の夫が逮捕「何見てんだよ」とポルシェのオープンカーでライバル店に横づけ挑発…「彼はチンピラでした」「ほとんど亡くなった奥さんの命令で動いてた」
集英社オンライン / 2024年5月7日 1時17分
-
3山形の山林火災、発生3日も鎮火のめど立たず…東京ドーム29個分焼く
読売新聞 / 2024年5月6日 20時21分
-
4那須2遺体事件の首謀か、被害者娘の内縁の夫を逮捕 死体損壊容疑
産経ニュース / 2024年5月7日 0時3分
-
5自民議席減へ立民と調整 国民・玉木氏、次期衆院選で
共同通信 / 2024年5月6日 21時46分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください