市再建の陰に「流しの公務員」
Japan In-depth / 2019年8月7日 11時0分
出町譲(経済ジャーナリスト・作家、テレビ朝日報道局勤務)
「出町譲の現場発!ニッポン再興」
【まとめ】
・「地方自治は民主主義の学校」といわれる。
・「流しの公務員」自認する山田朝夫氏、愛知県常滑市副市長に。
・市民会議方式で市民病院を建て直し、経営改善を図った。
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「地方自治は民主主義の学校」という言葉がある。これは、イギリスの政治家ジェームズ・ブライスが残した言葉である。国に比べて、もっと住民の意見を反映させやすく、民主主義の理想に近いという意味である。議会も首長もどちらも、住民が直接投票し、選ぶからだ。住民の声に耳を傾け、意思決定する。そのプロセスこそが、民主主義の根幹をなす。
こうした精神が微塵とも感じられない市町村もある。市長が地元の商工会議所会頭と密室で決めてしまうパターン。さらには、いつも同じようなメンバーの審議会をつくり、住民が参加したと演出するところも多い。
ところが、愛知県常滑市は違う。「流しの公務員」と名乗る副市長が、「民主主義の学校」を貫いた。山田朝夫である。1986年に自治省入りしたキャリア官僚だったが、その地位を捨て、自治体を転々と渡り歩く。
山田が常滑市に関わり始めたのは、2008年だ。着任当初、財務当局の中堅の話を聞いて愕然とした。予算規模200億円の常滑市が、今後、毎年10億円の財源不足が続くという。
それまでの市長や幹部は、深刻な状況を見て見ぬ振りをしていた。財政担当者は進言していたが、聞き入れられなかった。仕方なく、その場しのぎを繰り返していた。
赤字の大きな要因は市民病院だった。毎年7億円以上赤字を出し続けていた。
常滑市民病院は、市民ならぬ「死人」病院と揶揄されていた。建物は築50年を超え、老朽化が進んでいた。市民病院を存続するにしても廃止するにしても、市民病院のあり方を市民で議論する場が必要だ。そう考えて山田は市民会議を立ち上げた。それが「100人会議」だ。自らは仕切り役となった。「市民が議論して廃止となれば、市長が責任を問われることはない。また、存続となれば、市民は自分たちが決めたのだから、病院を支えてくれるだろう」。
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