強気の訳はトランプの後ろ盾 英ジョンソン新首相を占う(下)
Japan In-depth / 2019年8月7日 23時0分
金融市場においても、平日(2019年10月31日は木曜日だ)に、今日を限りにEUとは無関係です、といった事態が起きた場合、その混乱の規模たるや、「想像つかないのではなく、考えたくもないのが本音だ」
とは、イングランド銀行幹部のコメントである。
百歩、いや五百歩ほど譲って、観光産業などには好影響が期待できる、としよう。実際に円高ポンド安は、日本人観光客にとっては福音だろう。しかしながら、英国内のスーパーで売られている野菜や食肉は、多くが南欧や中南米からの輸入品だという事実を見落とすべきではない。ポンド安はこうした食材の値上がりに直結し、庶民の台所を直撃するだろう。いつの時代、どこの国でも、国際社会で軋轢が起きたら、最大の被害者となるのは立場の弱い人たちなのだ。
しかし、こうしたことを踏まえてなお、ジョンソン新首相は強気の姿勢を崩していない。その理由は、米国トランプ政権がEUからの離脱を強く支持しているからだ。
▲写真 ドナルド・トランプ米大統領。出典:Donald J. Trump facebook
もともとあの大統領は、EUをあまりよく思っていない。ヨーロッパの歴史や統合思想についての知識など皆無で、「アメリカ合衆国のおかげで、少ない軍事費負担でソ連の侵攻を防ぐことができたのに、冷戦が終わったとたんに閉鎖的な単一市場を創り出した」という、米国内の保守的、あるいは右翼的な層がとなえる世界観を鵜呑みにしているのだと思う。
EUが、ジョンソン新首相の登場に対して、打てば響くように「離脱の条件について,再交渉の余地などない」とコメントしたことはすでに述べたが、トランプ政権は、これまた打てば響くように、「合意なき離脱となった場合、米英は新たな貿易協定を締結するであろう」と述べている。新首相が得々としてマスコミ発表したことは、言うまでもない。
とどのつまり、トランプ政権が自身の強力な後ろ盾となっている以上、「EUがなくとも米国と英連邦がある」と言い張ることが可能なのだ。
たしかに、合意なき離脱となった場合、経済的混乱は避けられないとしても、それが破滅的な規模にまでなるとは断言できない。むしろEUの側が大きなリスクを背負うかも知れないということは、メイ前首相の辞意表明についての記事の中で、すでに述べた。
現状で夏休み明けまで推移した場合、秋の解散・総選挙を経ることなく合意なき離脱に至る、という流れはきわめて考えにくいが、私が、旧知の英国人ジャーナリストらから仕入れた情報を信ずるなら、「ジョンソン新首相はそこまで読み切っている」というのが、今やかの国の政治ジャーナリストの間で支配的になりつつあるようだ。
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