迷走する米国家情報長官人事
Japan In-depth / 2019年8月15日 8時54分
まずアメリカには、情報機関と位置づけられる政府組織がCIA、DIA、FBI(連邦捜査局)はじめ計16あるが、それらの判断はしばしば一枚岩ではない。さらに各組織内でも、分析官の意見が分かれる場合は少なくない。それら情報機関の横の連絡を図り、全体を統括する役割を担うのが、911同時多発テロ後に新設された国家情報長官である。
▲写真 国家情報長官室(最上部)を含めた計17の米情報機関の標章。 出典:いずれもパブリック・ドメインをもとに編集部で作成。
今年1月29日、コーツ国家情報長官とジーナ・ハスペルCIA長官の上院情報特別委員会における証言が一波乱起こした。多くのメディアが「ホワイトハウスと情報機関の認識のずれが浮き彫りになった」と報じ、トランプ大統領が両長官を公然と「学校に戻れ」と批判する事態となった。
▲写真 ジーナ・ハスペルCIA長官 出典:Central Intelligence Agency
翌々日、大統領とボルトン安保補佐官が両長官をホワイトハウスに呼んで会談、その結果、大統領によれば、イランや北朝鮮の現状に関する認識の齟齬はなく、報道は文脈を無視した「フェイク・ニュース」であることが分かったと総括された。
この間、米主流メディアは、情報部の長官らが「大人」で、トランプが間違っている、との報道姿勢で一貫していた。しかしもう少し複雑である
まずイランの核に関し、両長官は、現在兵器開発は止まっており、「イランは形の上では2015年の核合意に従っている」と証言した。これは十数年来、米情報社会の多数意見である。一方、イスラエルからの情報やイラン現体制の行動パターンを重視し、秘密核兵器開発が続いているとする少数意見も根強くある。
情報の世界は、もちろん多数決で正否が決まるものではない。ごく少数の意見が正鵠を射ていたという場合も往々にしてある。
特に「中東の核」については、1991年の湾岸戦争前、「イラクの核兵器開発は進んでいない」が米情報部の多数意見だったが、戦後相当規模のウラン濃縮施設が発見され、逆に2003年のイラク戦争時には、「サダムは大量破壊兵器を保有」が情報部のコンセンサス意見だったが結局完成品は見つからなかったなど「多数派の誤り」が続いてきた。
情報部も生身の人間の集まりであり、重大なミスの後には、羮に懲りて膾を吹く、すなわち逆方向に過度の修正を行いがちである。
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