「別府のマネするな」由布院の改革者
Japan In-depth / 2019年9月9日 18時0分
出町譲(経済ジャーナリスト・作家、テレビ朝日報道局勤務)
「出町譲の現場発!ニッポン再興」
【まとめ】
・中谷健太郎は質の高いまちづくりを目指した。
・目指したのはドイツの『緑』と『空間』と『静けさ』。
・世代を超えた改革の「魂」により由布院の活性化は進む。
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前回お伝えした、由布院の料理全体のレベルを上げた料理人の新江憲一が尊敬してやまない人物がいる。老舗旅館「亀の井別荘」の経営者、中谷健太郎である。80代半ばの長老だ。
「若いころから『ほらケン』というのがあだ名でした。できそうもない大きなことを言っていたからです」。
中谷は高度成長期に、由布院を再生した立役者だ。大分県内の別府の影に隠れていた由布院を全国的に有名にした。同じく由布院の老舗旅館・「玉の湯」の経営者、溝口薫平と一緒に、改革の旗を振った。「別府のマネをするな」。それが原点だった。
若い時、最初に直面したのはゴルフ場の建設計画だった。中谷はそれに反対し、自然と農村風景を生かした温泉地づくりを標榜した。外の大きな資本を受け入れず、独立の松明を掲げ続けた。
その後、ドイツを訪問。まちづくりの原点を学んだ。自然豊かな環境で、客にゆっくりと、長時間滞在してもらうスタイルだった。高度成長期、はやった大型旅館や団体旅行とは一線を画した。「大きいことはいいことだ」と言われる時代に、「小さいことは美しい」をモットーにした。
この旅行、ネックとなったのはお金である。1ドル=360円の時代だ。格安チケットもなく、航空運賃も高い。銀行から融資を受けようと思ったが、貸してはくれない。窮地を救ってくれたのは、町長だった岩男穎一(いわおひでかず)だった。岩男は3人の保証人になり、1人70万円の融資が受けられるにようにしてくれた。さらに、町の臨時嘱託という身分にして、調査費名目で10万円上乗せしてくれた。
岩男はこんな言葉で送り出したという。「世界をよく見てきてくれ。必ず元気に戻ってきてくれ」。私は中谷の話を聞きながら、50年、100年続く、まちづくりこそが重要だと痛感した。
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