私のパフォーマンス理論 vol.36 -乗り込みについて-
Japan In-depth / 2019年9月14日 7時0分
股関節、足首・膝関節を固定するというと、つい足をかちっと固めるイメージが強くなる。実際に受け身の動きを意識すぎて動きがギクシャクし小さくなり走りが硬くなっている人も少なくない。実際にはこの受け身の動きというのは関節を固めるというよりも硬いゴムのような感覚に近い。太い竹は曲げようとしてもなかなか難しいが強い力で押せばちゃんとしなる。あのような硬いけれどもしなりがある力の入れ方が望ましい。しなりとたわみがあることが重要だ。
乗り込めている選手と、踏んづけている選手がある。後者は力感があるが、スピードが高まるとついていけなくなる。自転車の車輪を回すとわかるが、人間が筋肉を能動的に動かすと実は早く四肢を動かせない。スピードが遅ければ筋肉は積極的に動かす方がよく、スピードが早い反復運動では筋肉はむしろ動かさない方が早くなる。トランポリンで最初の2、3回のジャンプは足で踏んでも上に飛び上がるかもしれないが、複数回ジャンプすると膝と足首関節を固定している選手の方が圧倒的に高さが出る。走りも同じように速度が上がってきて、地面に力を加えられる時間が短くなればなるほど主観的な身体の動きは逆に静かになっていく。
結局乗り込みの精度を決めるのは腹圧になる。体感や丹田、インナーマッスルなど色々言い方があるが、要は中心部のことだ。うまくなると、ブルースリーのインチパンチという技に(あれがどの程度本当の力を持っていたかどうかはともあれ)力の出し方が似てくる。下っ腹あたりに普通の大きさの風船がありそれを上から押すと一度潰れてそのあと下方向に跳ねていくが、あれに似ている。実際の動きでは数ミリ体重を落として腹圧をかけると足を介して地面に力が伝わり移動やパフォーマンスに利用できるようになる。外から見てこれらの動きは静かに見える。閉じられた筒の中に水が入っていて、その筒を上下に小刻みに揺らすと水が上下して上や下に力が移動する。けれども外から見ても中の動きがほとんど見えない。中心部が使えるようになると外見上は動いていないが、身体内部で圧をかけることで力を移動させることができる。
中心部で力を生み出し、跳ね返ってきた力を受け止められるなら、大腿部から下はただの受け身の道具になれる。足も上半身も脱力される。中心部が十分に生み出しきれなかった不足分を、四肢が補う。積極的にひざ関節や足首関節が動くのであれば、それは十分に中心部が機能していなかった結果と考えられる。短距離走者において、前腿やひざ下や上肢が過剰に疲労するのは中心部で力を生み出しきれなかった罰を受けているにすぎない。
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