北朝鮮を利するボルトン解任
Japan In-depth / 2019年9月18日 23時0分
島田洋一(福井県立大学教授)
「島田洋一の国際政治力」
【まとめ】
・ボルトン氏退任でトランプ政権は核拡散防止に通じた側近幹部不在。
・北はトランプの「誤解」を利用しボルトン排除実現。制裁緩和狙う。
・日本はボルトン氏らと連携し、北によるトランプ政権篭絡防げ。
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原則重視の保守ハードライナーとして知られるジョン・ボルトン氏にはもう一つの重要な顔がある。すなわち「大量破壊兵器拡散防止」分野の専門家としての顔である。
ボルトン氏の米大統領安保補佐官退任は、トランプ政権の最高幹部クラスから、拡散防止の機微に通じた人物が消えたことを意味する。なお、大統領安保補佐官(Assistant to the President for National Security Affairs:通称 National Security Advisor)は、日本でいえば、安保に特化した官房長官というべき非常な要職である。
ボルトン氏は、2001年1月からのブッシュ・ジュニア政権で国務次官(軍備管理・拡散防止担当)を務め、続いて国連大使として対北朝鮮安保理制裁決議の取りまとめを行った。
▲写真 ボルトン氏の国連大使任命を発表するブッシュ大統領。右端はコンドリーサ・ライス国務長官(2005年8月1日)出典:Public domain
「非核化」「無力化」「凍結」「査察」「核関連物資」といった概念に潜む様々な陥穽や、北朝鮮、イラン、中国、ロシアさらには国際原子力機関などの行動パターンを、最前線における交渉を通じ知悉している。そのことは、拡散防止の教科書とも言える氏の回顧録『降伏は選択肢にない』(Surrender Is Not an Option, 2007 未邦訳)を読めば一目瞭然である。
2018年4月のホワイトハウス入り後は、最高度の秘密情報に接する権限を得、毎日午前3時に起床、出勤後に数時間を費やして情報機関の最新報告を熟読吟味してきたという。
従って、例えば国務省の米朝交渉担当者が「北が制裁緩和と引き換えに画期的な非核化提案をしてきた」とホワイトハウスに受け入れを求めてきても、ボルトン氏が補佐官でいる限り、「それは何年何月の北朝鮮提案の焼き直しにすぎない。これこれの部分に落とし穴があり、かつてコンドリーサ・ライス国務長官、クリストファー・ヒル国務次官補コンビが騙された轍を踏むことになる。また最新情報によれば、北はこれこれの秘密施設を建設中で、その新提案なるものの欺瞞性は明らかだ」といった具体的反論で立ちふさがることが期待できた。
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