北朝鮮を利するボルトン解任
Japan In-depth / 2019年9月18日 23時0分
北朝鮮はボルトン排除を繰り返し米側に求めていたが、その際最も忌避したかったのは、その「先制攻撃論」よりも、むしろ拡散防止分野における専門知識だったろう。ボルトン氏がいれば、騙せないのである。
そのボルトン氏が去って、トランプ大統領が「引っ掛かる」可能性が高まった。トランプ氏は決して「悪いディール(取引)」に乗せられてよいとは思っていないだろう。しかし核拡散分野での経験豊かな側近抜きに、トランプ氏によいディール、悪いディールを判断できる能力が備わっているとは思えない。
それを端的に示したのが、ボルトン解任理由を説明した際の発言である。
「ボルトンは幾つかの重大なミスを犯した。北朝鮮に関してリビア・モデルを持ち出し、(交渉機運が)著しく後退した。金正恩委員長が怒ったのももっともだ」との趣旨をトランプ氏は語ったが、これは基本的な認識不足を示すものである。
拡散防止分野におけるリビア・モデルとは、核関連物資の海外搬出および徹底した査察で核廃棄が確認された後に制裁解除を行うというもので、体制転換(レジーム・チェンジ)は要素に入らない。現にリビアのカダフィ政権は、2003年に核・化学兵器・中距離以上のミサイルの全面廃棄に応じて、順次制裁解除を得、その後、石油の輸出で潤い体制は安定した。2011年の政権崩壊は、「アラブの春」の大波に飲まれたためで、核廃棄は関係ない。押し寄せる民衆に核兵器を使えば、自らも消滅してしまう。
ところがトランプ氏には、リビア・モデルとは独裁者を武装解除させた上でレジーム・チェンジに持ち込むことだとの誤解がある。そして北朝鮮は、その誤解を利用して、ボルトン排除を執拗に要求し、首尾よく実現にこぎつけた。
すなわち大統領に拡散防止分野の知識がないがゆえに騙された、まさにその典型例がボルトン解任だったとも言いうる。
▲写真 トランプ大統領と金正恩委員長(2019年6月30日 板門店)出典:flickr; The White House
ボルトン氏が主張した本来の意味でのリビア・モデル、すなわち北朝鮮やイランの核廃棄を確認した上で制裁を解除する、言い換えれば、核廃棄が確認されるまでは「最大圧力」を維持するという政策は基本的に正しい。
今後北朝鮮は、「段階的、相互的な措置」という従来の主張を巧みに米側に持ちかけ、制裁緩和のただ取りを狙ってくるだろう。ボルトンという防波堤を失ったトランプ政権がどこまで持ちこたえるか分からない。
ボルトン氏はかつて、自らを重用してくれたブッシュ大統領が対北宥和政策に傾いた折り、「こんなことをしていては誰も支持する者がなくなる」と公然たる批判を厭わなかった。今後、トランプ氏に対しても同様の姿勢で臨むだろう。日本政府は、ボルトン氏らと陰に陽に連携し、トランプ政権の転落を阻止すべく、小まめに牽制していかねばならない。
トップ写真:大統領補佐官を解任されたジョン・ボルトン氏(中央)。写真はトランプ大統領との訪英時。(2019年6月5日 英・ポーツマス)
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