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私のパフォーマンス理論 vol.39 - 腕振り-

Japan In-depth / 2019年10月10日 23時0分

私のパフォーマンス理論 vol.39 - 腕振り-

 


為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)


 


【まとめ】


・腕振りは地面からの推進力を得る役割がある。


・四肢の動きと地面に乗り込むタイミングを一致させるのが重要。


・腕振りの質は技術、広背筋群の強さ、柔軟性で決まる。


 


【乗り込みについて】で乗り込みの技術が短距離で最も重要だと書いた。その乗り込みの際に地面に対して圧をかけることを増幅させるのが腕振りになる。


競技を始めたての頃は脚が力を生みそのバランスを腕がとっていると思っていたが、実際には腕が主導して脚の軌道を決めていると考えるようになった。腕振りの役割はただ体のバランスを取ることだけではなく、積極的に地面に力を加えることを手伝い、推進力を得ることにある。特に競技力が上がってくる後半では、脚はより受け身かつ、股関節の動きも静的になってくるので、腕振りの貢献度はより大きくなる。歴史的に見て、スプリンターの上半身が巨大化しつつあるのはこれと無関係ではないだろう。


人間の体が一つの球体であれば、タイミングは地面につく瞬間に中央で力を入れるという一点でいいが、人体は複雑で、大きくいえば胴体と四肢で構成されている。腕振りは、腕を振るイメージがあるが、肩甲骨の動きが最も重要だ。むしろ腕はそこで起きたことの結果に過ぎない。走る行為の中でタイミングを合わせるということは、身体、主に四肢が、地面に乗り込む瞬間に地面に圧を加えそれを前方方向に運ぶという一点に集約されるということと言える。腕は振り子のように動いている。振り子は最も下にある時点で最も地面に圧を加えることができている。ブランコを漕いでいて、座面に自分の体重が一番かかるのは地面に近づいた時だ。あれと同じ原理で腕振りも動いている。短距離選手が良くタイミングが合っているというのは、この四肢の振り子と地面に乗り込むタイミングが一致していることを言う。


腕振りのタイミングはどの競技も基本的には変わらない。高跳びのように一歩で大きな力を得ようとすると、大きく振り込んで地面に力を加える。短距離のように力を加えることを繰り返す時は、振り方をシンプルにしてリズミカルに振る。跳ぶ競技は多少体がねじれてもいいので腕を八の字にふることもあるが、走る競技はねじれることで足の回転速度が落ちるので、基本的には腕を縦にふる。


回転する椅子に座って腕を前後に振ってみると、自分の腰がくるくる回転されることに気がつく。走る行為は足を交互に出していくので、最高速度の一秒間に4-5回程度回転する。自分の腕を後ろで握手をするような状態にして走ってみると、想像以上に走りにくいことに気がつく。腕は激しく回転する骨盤を安定させる効果がある。特に大きなストライドを出すためには腕の役割は大きい。右腕を引くことと、右足側の骨盤が前方に引き出されることは繋がっている。サニブラウン選手のように大きなストライドで走ろうと思うと、必然腕振りは大きくなり、足を前方に引き出すために腕の後方への引きも強くなる。このような選手は着地の瞬間に肩ごと地面に抑えるような仕草をするので、一見首を伸ばして顎が上がっているように見える。私もそうだった。ついその癖を直したくなるが実際には足の動きを肩を下げることでコントロールしているので、直してしまうと特徴である大きなストライドまで死んでしまうのでやらない方がいい。


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