定期テスト廃止した公立中学(下)
Japan In-depth / 2019年11月5日 11時0分
出町譲(経済ジャーナリスト・作家、テレビ朝日報道局勤務)
【まとめ】
・学校は社会の縮図である。
・「全員担任制」は、チーム医療の様に「教員同士の連携」が重要。
・教員側も、本質的に大切な事を指導内容として理解する必要がある。
(上のつづき。)
麹町中学の校長、工藤勇一は「民間出身の校長ですか」と聞かれることが多い。しかし、根っからの教育者だ。振り出しは、故郷、山形県での教員だった。その後、採用試験を受け直して、東京都の教員になった。そして、教育委員会なども経験した。
満を持して校長になったのが、この麹町中学だ。そこで改革を次々に実行した。宿題や定期テストの廃止だけではない。2018年度には「固定担任制」も打ち切った。弊害が大きすぎると判断したためだ。その代わり導入したのは「全員担任制」だ。
「固定担任制」とは、1人の教員が、クラス全体を受け持つシステムだ。学習だけでなく、生活に至るまで、生徒の面倒をみる。工藤は廃止した理由について話す。「今の時代、教育に対して関心が高いのです。『もっといいサービスをしてくれ』という要求が出るのです。その要求はエスカレートします」。
その結果、教員の間では、「クラスの子どもに好かれたい」という意識が生まれる。学級王国をつくってしまう教員も出てくる。「教員は、自分の学級を王国のように自分の価値観で染めていくのです。どうしても、自分の学級オンリーになりがちなのです。そして隣のクラスの子供よりも自分のクラスの子供が大事になるのです」。
教員の中で、「勝ち組」「負け組」が生まれる。一方、保護者の間では、担任の「アタリ」「ハズレ」が話題になる。工藤は「『ハズレ』で『負け組』になった生徒は、どんな気持ちになるでしょうか」と問いかける。
さらに重要な問題点として、子どもたちへの影響だ。「自分のクラスがうまくいかないのは担任の教師のせいだ」。そんな意識が生まれるリスクがあるという。「自分で物事を考えて自分で解決できなくなった子供たちは、特徴がある。人の批判ばかりします。うまく手をかけてくれない先生を恨みますし、うちの先生は全然ダメって。手のかけ方が悪いって批判します」。
勉強が分からなければ、「授業が分かりにくい」といい、忘れ物をしたら、「聞いていない」と言い返す。責任転嫁の子どもが育つというのだ。
結論は、こうなる。学校は社会の縮図だ。ここで起こる問題は自分たちで解決しなければならない。例えば、いじめ。起こった時に、学校がどう対応するかということばかりが問題になる。しかし、本来は、いじめも子どもたち同士で解決できたほうがいい。「大人に依存するな。生徒も自律せよ」。それが、工藤のメッセージと言えよう。
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