池袋暴走事故に見る「正義の暴走」横行する「危うい正義」その2
Japan In-depth / 2019年11月19日 11時0分
そこで、池袋の事故のように、逃亡や証拠隠滅の恐れがないとされれば、たとえ逮捕しても、ひとまず処分保留という形ですぐに釈放し、あとは在宅で取り調べるケースが、むしろ多いのだそうだ。当事者が高齢だったという「忖度」は、おそらくあったろうが。
特に、事故原因について運転手がなんらかの言い訳をしているような場合、23日間のタイムリミットは、いかにもきつい。
一部の法曹関係者からは、この点を見越して、あえて逮捕しなかったのではないか、との声も聞かれる。この点も、前述の弁護士に聞いてみたのだが、それは考えられないことではないけれど、と前置きした上で、現場でとっさにそこまでの判断ができたかどうかは、やはり疑問だとの答えであった。
写真)交通事故現場(イメージ)
出典)Wikimedia Commons; 唐山健志郎
「なにしろ、あれだけの事故だから、とりあえず運転者も含めた負傷者の救護が優先だということで、いささか混乱していたのではないかな」
だそうである。
とどのつまり、ネットを中心に盛り上がっている「上級国民」がどうのこうのという議論は、当を得たものだとは考えにくいのだが、警察の処置がかなり杜撰であったことと、多くの人が疑問を呈しているにもかかわらず、説明責任を果たしていないことは、まぎれもない事実だ。私自身、弁護士の意見を聞いてもなお、やはりグレーゾーンが存在するのではないのか、という疑念を払拭できずにいる。
捜査上の秘密があるから、と言うかもしてないが、ならばどうして、逮捕されてもいない人物の実名や過去の職歴までが大きく報じられたのか。逮捕するか否かは警察の権限であるとしても、同じような事故を起こして、逮捕される者とされない者がいるのはなぜか、いかなる基準で判断されたのか、ということは、純粋に国民の「知る権利」だと思うが、どうだろうか。
そのことは踏まえた上で、私は元院長を執拗にバッシングする「正義」に対して、苦言を呈したいのである。
家族を突然、それも理不尽きわまる形で奪われたご遺族の無念、やり場のない憤りは、本当に見聞きするのも辛い。お気持ちは分かりますが……などと、私には言えない。
ただ、あくまでも客観的にものごとを見るというジャーナリストの倫理に照らせば、まず指摘しなければならないのは、これは犯罪ではなく事故であったということだ。さらに言えば、飲酒運転やひき逃げに比べれば悪質性も低い。
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