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奇跡の集落「やねだん」とは 「地域再生の神様」豊重哲郎氏 上

Japan In-depth / 2019年11月25日 10時35分

豊重はとにかく「全員野球」にこだわる。その原点となったエピソードは、公民館長就任2年目の1998年に完成した運動公園だ。自治公民館の隣という、集落のいわば「表玄関」にある。


この運動公園は、高齢者から、乳幼児、青少年まで集って、声を掛けあう集落の憩いの場となっている。心も体もわくわくする公園という意味で、豊重は「わくわく運動遊園」と名付けた。


元々は、でんぷん工場の跡地だった。2m以上の雑草が生い茂り、集落の景観を壊していた。豊重が自治公民館長就任にあたり、真っ先に考えたのは、この跡地を運動公園に整備することだ。まずは雑草の刈り取りから始めなければならない。


「みんなで集う場は、みんなでつくりたい」。豊重の呼びかけに、有志が反応した。休日のたびに、生い茂った草の刈り取りを行った。


その姿は、ほかの住民にも伝播した。この除草作業で集落内の人々の結びつきが強まった。普段あまり言葉を交わさない人同士が汗を流し、除草すると、自然に心が打ち解ける。集落全体300人が家族になる第一歩だ。ボランティアの輪がどんどん広がった。


遊具をつくるためには木材も必要だ。豊重が資材の提供を呼びかけたところ、集落の1人が「うちの山の杉の丸太、どうぞ」と応えた。杉の丸太はクレーンの重機で切り出され、しばらくは公民館の前に置かれた。


木材の切り出しや土地の造成、建物の建設などを担ったのは、ほぼすべて集落の人々だ。集落に住む大工や左官、造園の経験者らが汗を流した。業者に発注したのは、電気工事だけだ。ノコギリや金槌などはホームセンターで自主財源で購入した。労働する体力のない高齢者は寄付した。まさに住民総出だ。結局、費用は8万円しかかからなかった。


豊重は、「感動して涙が出た。そして〈やねだん〉は大きく前進していけると実感した。感動があれば、人が動く。それが地域再生の原動力になる。補助金に頼らず、1人ひとりの小さな力を結集して取り組んだ大きな村おこしだった」と語る。



▲写真 わくわく運動遊園 出典:やねだんオフィシャルWebサイト


就任2年で起こした絆再生の一大プロジェクトだったのだ。


こうした運動公園は通常、300万から500万円の経費がかかるという。さらに、運動公園は「副産物」を生み出した。


住民の健康増進だ。高齢者がこの公園の運動器具で体を動かした結果、病院へ行く回数が大幅に減ったのである。鹿屋保健所の調査によれば、〈やねだん〉の75歳以上の人の医療費は、市平均より35万円安い44万1000円。また介護給付金も40万円安い95万9000円だった。


次々にアイデアを打ち出し、それを実現していく豊重だが、それを快く思わない人もいた。「あいつは目立ったことをやり、町長選にでも出馬するのではないか」という批判の声もあった。


豊重はとにかく粘り強く説得した。そして反目する人に対して、なるべく出番を引き出すように心がけた。出稼ぎや戦争体験のある人に対しては、それを話してもらったりした。一人ひとりの住民を納得させることで、「全員野球」の地域再生に心がけた。


豊重は、こう振り返る。「地域活動では特に、不平や不満を言う人は必ずいる。とにかく粘り強く話し合うことが大事なんです。『急ぐな、慌てるな、近道するな』が最も大事だと思う」


(敬称略)


(下に続く。全2回)


トップ写真:唐辛子畑で笑顔を見せる住民 出典:著者提供


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