変革には後進の育成こそ必要
Japan In-depth / 2019年12月26日 20時21分
その後のシンポジウムに彼らが登壇した時には、それまで全く付き合いのなかった医学界の重鎮や官僚、政治家たちが押し寄せた。そして、「私をX先生に紹介して欲しい」などと頼んできた。私は権力に日和る彼らの姿を見苦しいと思った。そのような人たちは、その後、来なくなった。髙久先生は、このような連中とは違った。
髙久先生と話していて、いつも話題になるのは、自治医科大学の卒業生のことだ。髙久先生は、自治医科大学が設立された1972年から10年間、同大学の内科教授を務めた。当時40代。油が乗り切ったころだ。髙久先生はよく学生の面倒をみたそうだ。知人の自治医大の卒業生は「学生はしばしば髙久先生の自宅に招かれました」という。
▲写真 自治医科大学 出典: パブリック・ドメイン
開学当初の自治医大の卒業生は勤勉で能力が高いことで知られている。髙久先生の薫陶を受け、この頃の卒業生から多くの逸材がでる。その代表が地域医療振興協会の理事長を務める吉新通康氏だ。現在も髙久先生と二人三脚で地域医療を守っている。
髙久先生は、今でも教え子が支援を求めると出かけていく。東日本大震災後の2013年5月、福島県立医科大学が会津医療センターをオープンしたときに、センター長を引き受けたのは、「教え子であり、会津医療センター準備室長の大田雅嗣氏の存在が影響している」(同大学の職員)からだ。
大田氏は現在、同センターの病院長を務めるが、1979年に北海道大学を卒業した後、自治医大で研修した。血液内科を専攻した髙久先生の教え子だ。医学界の重鎮は誰もが「地域医療が大切だ」と言う。ただ、ほとんどは口だけだ。地方に足を運ぶことなく、大学や学会での活動に勤しむ。髙久先生のような人は少ない。
髙久先生の強みは、実際の行動を通じて、弟子を育て、長年にわたり彼らと信頼関係を構築していることだ。そして、教え子たちが有機的なネットワークを構築している。このシステムは、彼が50年近くをかけて作り上げてきたものだ。同じものを作りたければ、同じ時間、汗をかかねばならない。髙久先生の本当の強みは、ここにある。
医学部教授の中には、学生や若手医師の指導を放ったらかしで、製薬企業のアルバイトや学会活動に勤しむ人が少なくない。このような連中に限り、「個人に依存しないシステムが大切」などと言って、役所や学会に制度作りを求め、その神輿に乗ろうとする。これで人望が得られる訳がない。制度によって若手に言うことを聞かせるためには強制するしかない。その典型が専門医制度だ。
本気で何かを成し遂げたければ、後進を育て、長期間にわたり汗をかかねばならない。
最後に、シンポジウムの控え室での光景をご紹介したい。シンポジウムを手伝う学生の真ん中にいるのが髙久先生だ。我々が髙久先生から学ぶべきことは多い。
▲写真 著者提供
注:本稿は「医療タイムス」の連載を加筆修正したものです。
トップ画像:「現場からの医療改革推進協議会シンポジウム」。写真は第13回(2018年11月24,25日)の様子。出典:YouTube 「現場からの医療改革推進協議会第13回シンポジウム」
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