晴れること無き日本郵政の闇
Japan In-depth / 2020年1月23日 18時0分
八木澤徹(日刊工業新聞 編集委員兼論説委員)
【まとめ】
・かんぽ生命保険の不正契約問題で日本郵政は創立以来の危機。
・増田新社長は歴代の社長のような成長戦略を封印。
・新社長に望むのは、かつての日本郵政公社時代の安心・安全経営。
「創立以来最大の危機だ」。かんぽ生命保険の不正契約問題を受けて辞任した日本郵政の長門正貢前社長の後任社長となった増田寛也氏は初会見でこう述べ、被害の全容解明と信頼回復に全力を挙げるとした。当然の発言だ。が、官僚出身のトップの下、危機管理重視の「行政型経営」シフトで民営化の流れは一層の停滞が避けられまい。
かんぽ生命と日本郵便によるかんぽの不適切な契約問題で行政処分を受けたかんぽ生命と親会社の日本郵政の株価は2015年の上場以来、最安値を更新している。株主の大部分は郵便局の信頼を信じる高齢者の個人投資家だ。かんぽ契約者の中心層は高齢の女性だから二重で被害を被っている可能性が高い。
建設省(現国土交通省)出身の増田氏は総務相や政府の郵政民営化委員会委員長を務めた。政府や財界から昨年末に社長就任を打診されたが、政治や政府に振り回される日本郵政の内情を知る故に、いったんは断ったという。
それでも引き受けたのは民間で引き受ける経営者は見当たらず、また自身が郵政民営化に深く関わってきた責任からだとし、「まず足下を固める。マイナスをゼロに戻す」と抱負を語った。ただ「ゼロに戻す」ことすら困難な道が待ち受ける。
金融庁と総務省による行政処分でかんぽの新規販売は今年3月まで業務停止が余儀なくされ、営業停止は8カ月を超える。また郵政グループの屋台骨を支えるゆうちょ銀行でも投資信託の不適切契約が約2万件見つかっている。
郵政民営化で民間金融会社となったかんぽ生命とゆうちょ銀だが、金融商品の販売は全国2万4000の郵便局に頼り切っている。一方、赤字体質の郵便事業を抱える日本郵便も郵便局から上がる金融2社の販売手数料収入に依存する。
民営化以降、過度なノルマが現場を苦しめている。信頼回復と成長戦略の二兎を追うのは困難を極めるが、増田氏は二兎を追うのは諦めたようだ。かんぽ生命社長に就任した千田哲也、日本郵便社長の衣川和秀両氏とも旧郵政省(現総務省)からの転籍組だ。まずは内部を固め直し、歴代の社長のような成長戦略を封印した。賢明な判断だ。
「郵便局を地方の生活全般を支える存在に」と語る増田氏の脳裏には、岩手県知事時代に経験したであろう過疎地域に住む高齢者の存在があるに違いない。経営者でない増田新社長に望むのは、かつての日本郵政公社時代の安心・安全経営の復活である。
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