令和の朝日新聞大研究 6 政治プロパガンダの増殖
Japan In-depth / 2020年3月21日 11時41分
世界にはその他にも航空母艦を持つ国、持ってきた国は多々ある。イギリス、フランス、アルゼンチン、ウクライナ、インド、イタリア、ドイツなどである。これらの諸国がみな人類を不幸にしてきたのか。
駒野記者の記事は前半で近年の空母の多様な役割を書く。とくにアメリカの空母が湾岸戦争や台湾をめぐる中国との対立で果たした効用を説明する。そのうえで日本も対米戦争では空母をフルに使った歴史を述べる。だが空母がなぜ人類を不幸にするかの説明は出てこない。
同記事はやっと最後に近い部分で「空母は空を制し、敵国の中枢部も襲う」と書いたうえで、日本海軍の連合艦隊司令長官だった山本五十六が1934年のロンドン軍縮会議予備会議で日本案として空母の全廃も提案したとして、以下のように記していた。
《山本は空母の全廃を主張する。米代表は、航空の司令官だった人の口から廃棄を聞くのは意外だと冷やかした。山本は『だからこそ、その廃棄を主張する』、戦時の空母の使命が『人類に不幸なるものか』、知るのは自分だけだ、と反論した。事実、空母に始まった戦は日本人を不幸にした》
以上の記述がこの長い記事のなかで「空母は人類を不幸にする」という全体の主張の唯一といえる論拠だった。だがこの「論拠」がいい加減きわまることは明白である。
▲写真 山本五十六連合艦隊司令長官 出典: 国立国会図書館
同記事は最終部分で日本の自衛隊の「いずも」の空母化について次のように結んでいた。
《自衛から攻略へ。能力を激変させる転換点になる。しかも米海軍の空母は懐に抱え続ける。その手下となって不幸を共有するのか。山本が抱いた自覚も、克服する覚悟もないまま、封印を解こうとしている》
駒野記者の本音はこの部分だろう。だがこの記述も矛盾だらけである。だからこそしょせんはお粗末なプロパガンダ記事なのだ。そう断じざるを得ない理由は少なくとも3つある。
まず一番目は、「いずも」はせいぜい自陣営の艦隊防衛の能力しかなく、他国に襲いかかれはしないというのが専門家の判断である。同じ日の朝日新聞に元海将の伊藤俊幸氏がそう明記している。
二番目には、米海軍の空母の手下になることがよくないというなら、日米同盟には反対ということになる。朝日新聞は日米同盟自体に反対なのか。その基本を曖昧にしたままのこの手のゲリラ的攻撃は姑息である。
三番目には、アメリカ軍の空母を日本の防衛に取り込むことが「不幸」だと断じるのは、あまりに情緒的である。その根拠もない。
だからこの記事の「空母は人類に不幸」というプロパガンダ主張にはなんの根拠も論理もない、とみなすしかないのである。
(7につづく。1、2、3、4、5)
**この連載は月刊雑誌WILLの2020年3月号に掲載された古森義久氏の「朝日新聞という病」という題の論文を一部、加筆、修正した記事です。
トップ写真:朝日新聞(2019年5月24日 神戸市)出典:flickr; Sharon Hahn Darlin
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