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美しいだけじゃない 桜の力

Japan In-depth / 2020年3月27日 18時0分

 


そのため、大雨をもたらす梅雨が来る直前、さらに堤防が弱体化しやすい春に多くの人が花見に訪れ、堤防を踏み固めてくれる点で、桜は他の木よりも災害対策において理に適っていたのだ。


実際、内閣府「防災情報のページ」によれば、八代将軍徳川吉宗が命じて作らせた葛飾区水元小合新町の大場川桜堤は利根川が氾濫した際に、氾濫水が江戸へと流れ込むのを防ぐ防衛線として位置付けられていた。


「さくら土手」とも呼ばれたこの堤防は1947年(昭和22年)のカスリーン台風の際に決壊し、桜の木も流されてしまったが、道路整備や桜の植樹を経て「水元さくら堤」として再び葛飾区内の桜の名所に返り咲いた。



写真)水元さくら堤の由来


出典)東京葛飾ライオンズクラブ


また川沿いの桜並木を歩いていると、桜の木が堤防の真上ではなく、少し川側に植えられていることに気付く人もいるだろう。これは川側に桜の木の根が出てきてしまうことで、堤防に穴が開き強度が下がってしまうのを防ぐためのものだ。こうしたところにも決壊を防ぐための知恵が生かされている。


 


・ソメイヨシノの弱点


このように堤防の決壊を防ぐのに適した桜だが、問題点もある。現在桜並木に植えられている桜の品種のほとんどがソメイヨシノだが、ソメイヨシノは自己繁殖をしない。


そもそもソメイヨシノは江戸後期に植木職人が多く暮らしていた「染井村」(現在の東京都豊島区)から観賞用として人工的に交配された園芸品種であり、桜の木のみで繁殖することができない。つまり、新しく数を増やすためには接ぎ木などによって人の手が加えられることが不可欠である。


ソメイヨシノは高度経済成長期に大量に植えられたが、それらが近年寿命を迎えようとしている。もし今植えられているソメイヨシノが放置されそのまま寿命を迎えれば、堤防の土を固める機能が弱まり、洪水に対して脆弱になってしまう恐れがある。


さらに、先述したようにソメイヨシノは自己繁殖ができず、接ぎ木で数を増やしている。したがって日本中のソメイヨシノは同じ遺伝子情報を持つクローンであり、遺伝的な多様性が極めて低い。多様性がないと言った方が正しいかもしれない。そのため、どれか一つの木が伝染病に感染すれば、瞬く間に他のソメイヨシノの木にも伝染してしまう。


全国に桜の苗木を提供する活動を行っている公益財団法人「日本花の会」によれば、カビの一種が原因で引き起こされる「てんぐ巣病」がソメイヨシノの間で蔓延していることが判明した。


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