人類と感染症8 スペイン風邪、日本で最初は「相撲風邪」
Japan In-depth / 2020年4月20日 12時7分
この猛威に、人々の打つ手はなかった。人ごみに出なかったり、手洗いを励行することぐらいだった。公共の場でのマスクの着用も奨励された。家に厄除けの札を貼ったりする人もいた。
1918年秋に発生したスペイン風邪は、年をまたいだ。19年2月の朝日新聞は「入院皆お断り、医者も看護婦も総倒れ」という見出しで伝えている。いまとそっくりな医療崩壊の危機だ。
しかし、この年の春には沈静化した。気温が上昇したためなのか。その理由はわからない。「危機は去った」。楽観論が浮上した。ところが、ウイルスはこの年の暮れに、再び大暴れした。これがスペイン風邪の「第2波」だ。毒性が強くなって、死亡率が高まった。東京日日新聞はこう伝えている。
「恐ろしい流行感冒がまたしても全国にはびこって最盛期に入り、死者続出の恐怖時代が来たようだ。せき一つでも出る人は外出するな。その人のせいでたくさんの感染者を出すかもしれない」(1920年1月11日付)
スペイン風邪は、収束したと思ったら、再び牙をむく。恐怖の感染症だ。日本でもかつてない数の犠牲者を出した。しかし、長い間、歴史上忘れ去られてきた病気だった。
その理由は、日本を取り巻く時代環境にある。当時は大正中期だった。大正デモクラシーも盛んだった。工業生産高が、農業生産高を上回った。さらに、第一次世界大戦の戦勝国となった。身の回りに大きな変化があった時期だけに、スペイン風邪は軽視されていたという。
さらに、もうひとつ注目すべきは、致死率だ。2%程度なのだ。ペストやコレラなどに比べてずっと低い。大した感染症ではないという見方が根強くあった。
ただ、致死率が低いと言って、楽観すべきではない。スペイン風邪の怖さはその感染力にある。致死率が低くても、感染者数の増加に歯止めがかからなければ、犠牲者は増え続ける。
私はこうした歴史を踏まえ、改めて新型コロナに恐ろしさを痛感した。新型コロナの致死率は、国によってまちまちだが、ならせば、2-3%程度だ。スペイン風邪と変わらない。
当たり前の話だが、感染が広まれば、犠牲者そのものは増える。人から移されないように、最大の警戒が必要なのだ。スペイン風邪のような甚大な被害が出るかどうか。我々は今、最大限の警戒が必要になっている。
トップ写真)マスクをする女学生 出典)20世紀2001大事件
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